俺は、何をしてるんだろう。ナマエが振り払えないって分かってて縋ってる。
こいつの優しさに漬け込んで、甘えて、ガキみたいに駄々こねて。
…それでも、もしかしたら振り払われるかもしれないって。触るなって、拒絶されるかもしれないって。
小さな体に回した自分の震える手を、まさか握り締めてくれるとは思わなかったから。
期待した。バカみたいに期待してた。もしかしたら、まだ俺のこと好きなんじゃないかって。
土方のヤローと一緒にいたのも、もしかしたら見間違いで。…本当は、俺のことを許してくれるんじゃないかって。
抱き留めた小さな体は俺と同じくらい震えていた。時折漏れる嗚咽に、あぁ…こいつこんなに小さかったんだって。弱かったんだって思って。
一気に込み上げてくる愛おしさ。苦しくてたまらなくて、このまま二度と離したくなくて。でも…
「…ぎっん、ちゃん、あの、ねっ」
しゃくりあげながら、必死で何かを伝えようとするナマエに少なからず俺のカンは働いていた。あぁ、もう終わりかって。…もう、この腕の中に留めることも出来ないのかってそう思ったら。
「…やだ、」
「ぎん、ちゃん…っ」
「…好きだ。ナマエが、好きなんだよ…っ」
柄にもなく、声を荒げて縋りついて。ナマエがまた泣きそうな顔してるのも分かってて、こうして困らせて。
それも全部全部、俺のただのワガママ。分かってんだよ、本当は。こんなの違うって。分かってるけど、
「…私ね、今トシと付き合ってるの」
「なんで…なんでよりによってアイツなんかとっ!」
「好きなの。トシが、今は一番好きなの」
「っ!」
聞きたくなかった。ナマエの口から、そんなこと聞きたくなかった。回していた腕をやんわりと外される。
俺の方へゆっくり振り向いて笑ったナマエ。それは、久しぶりに見た…彼女の笑顔だった。
「…銀ちゃん、ありがとう。銀ちゃんと過ごした時間、絶対忘れないよ。…大好き、でした」
「っ、」
「私のこと、好きでいてくれてありがとう」
そう言ってまた、笑って。ナマエは俺に背中を向けた。今度こそ遠ざかっていく小さな背中は、しばらく歩いて、それから思い出したように走り出す。
肩が小刻みに震えているように見えたのは。…きっと、見間違えなんかじゃない。
「…バカヤロー」
忘れらんねーよ。忘れられるわけがねェ。お前みたいなイイ女、滅多にいねーんだよ。
もう一度溢れた涙は、誰にも見られることなく地面に吸い込まれて消えてった。
(好きだ、お前が好きだ…いくら言っても、伝える相手はもういない)
end
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