★君と僕。で、犬。(2)

「何言ってるんですか?」

千鶴が不満顔で後ろを向く。
どうやらまだペットショップのワンニャンを堪能しきっていないようだ。

「それは僕のセリフ」

千鶴の顔をガッと掴んで自分の方を向かせる。
総司の表情は千鶴以上に不満顔で、若干起こっているようにも見える。
このペットショップは二人の放課後デートの際にほぼ必ず立ち寄ると言ってもいい場所で、今までこんなふうになったことはなかった。
それに今さっきまで楽しげにしていたというのに。

「この前まではペット飼えたらいいねって言ってくれてたじゃないですか」
「うん、言ってたよ。今は言った頃の自分を呪いたいくらいだよ」

この短時間でいったい何があったのか。
千鶴は訝しげに首を傾げたが、ただ単に動物に嫉妬しているだけだ。
総司はもうここで話を切り上げ、千鶴の手を引きさっさと次のお店に進もうとする。

「……何がそんなに不満なんですか?」
「じゃあ聞くけど、何でそんなに飼いたいの?」
「そ、それは……」

千鶴はペットを飼い始めた自分を思い浮かべる。

――茜色の空、真っ暗な我が家、誰もいない家の玄関を開けると「おかえり」と元気に出迎えてくれる可愛いポメちゃん(仮)、癒される私。

父親は仕事で不在がち、兄は予備校で不在がち。
一人で寂しい家にもう一人の家族ができたらなんて素敵なのだろう。
千鶴がそう説明をすると、総司は即座に却下した。

「駄目。どうして僕がいないわけ」
「えっと……一緒に住んでいないからです」
「出迎えてほしいなら僕が一緒に住んであげる。うん、それで解決。千鶴ちゃん、一緒に住もう」
「…………そう言われましても」

話が変な方向へと進んでいっている。
千鶴は軌道修正かけようにも、こういうときの総司には何を言っても無駄だということがわかっていた。
だから逆撫でしないようにテキトーに受け答えすることに決める。

「一緒に暮らし始めたらまあ一匹くらいは飼ってもいいかな」
「いいんですか?」
「うん。その代わり一番は僕だよ」
「沖田先輩はどんなワンちゃんを飼いたいですか?」
「うーん、僕は特にないよ。君の好みに合わせる」
「ホントですか? 私、ポメちゃんを連れてお散歩してみたいなって思ってたんです」
「そっか、ポメラニアンかぁ」

――薄闇の空、どこかから流れてくる夕食の匂い、散歩コースの線路沿いを歩く千鶴、その手を繋ぐ僕。で、犬。

想像するだけで顔がにやけてしまいそうだ。
毎日朝夕と仲睦まじくお散歩デートも悪くない。
総司はめくるめく未来を妄想して幸せな気持ちになる。

ん? 待てよ……?

しかし当たり前と言ったら当たり前の壁にぶち当たる。
それぞれの予定があるのだ、毎日一緒にお散歩に行けるわけではないだろう。特に夕方。
今は部活で遅くなってしまうし、大学に進学したら帰宅も遅くなる。
総司は千鶴一人がポメちゃん(仮)を連れて散歩している光景を思い浮かべた。

――薄闇の空、どこかから流れてくる夕食の匂い、散歩コースの線路沿いを歩く千鶴。で、犬。
そこに「可愛いですね」と犬好きを装って群がる千鶴狙いの狼たち。騙され裏路地に連れ込まれる千鶴、その場でキャンキャン吠えるだけの犬。そして絶望する僕……

「絶対ダメだから。小型犬なんて絶対反対」

またも飛び出した反対に、千鶴はわけがわからず目をぱちぱちと瞬かせたのだった。




★つづく★
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2012.02.09

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