mononoke2 | ナノ
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今日の仕事が終わり、実希が休みなのもあって夢香は早々と書店を出る。
すると翼が自販機の側で、買った雑誌を読みながら立っていることに気付いた。
翼も夢香が出てきたことに気付き、雑誌を閉じる。


「待ち伏せして悪い。今からさ……食事でも行かないか」
「えと……ごめんけど、今日はもう帰りたいんだ」


これまでの誘いを全て断る形になっているため、申し訳ない思いで謝る。しかし翼は引かなかった。


「じゃあさ、家まで送るよ」
「えっ、帰るだけなのに悪いよ」
「少しでも…!一緒にいたいんだ」


ストレートに向けられた言葉に驚いて、夢香は目を丸くする。そんなことを言われたのは初めてで、心臓が少しうるさくなる。
真剣に向けてくる視線。さすがにもう断ることができず、夢香は頷いた。


ふたり並んで歩く。いつもの帰路を歩いているのに、とにかく落ち着かない。
レジ越しや、メール、実希と一緒にいる時ならば大丈夫なのに、肩を並べてふたりきりというと状況が変わるのは何故だろう。
翼は薬売りよりも背が高く、無性に異性を感じさせた。無言が続き、翼が口を開く。


「悪い、無理強いさせたみたいで。嫌だったか?」
「嫌って訳じゃないよ、こういうの慣れてなくて……。私、彼氏いたことないし」
「…………。じゃあ、薬売りって奴は夢香の何なんだ?」
「え……」


思わず立ち止まる。何と説明すればいいのだろうか。居候と言ってしまえば説明がつくのだろうが、そんな言葉で終わらせたくないため口を閉ざしてしまう。困り果てていた時、カラ、コロと耳に心地良い足音が響いた。


「何、と言ったら……満足なので?」


「薬売りさん……」


行商中なのか、いつもの大きな荷を抱えていて。薬売りの姿を見た夢香は安心したように表情を和らげる。
一方翼は元々つっている目を鋭くさせ、薬売りを正面から見据えた。


「お前、夢香と一緒に住んでるんだろ」
「はい」
「何様のつもりだよ。彼氏って訳じゃねーみたいだし。なのにこの痣…!」


夢香の手を引き、袖をまくる。


「お前がやったんだろ」


酷く怒った様子で詰め寄る翼を、薬売りは受け流すように変わらぬ表情で返す。


「違う、といえば違うが……責任は感じています、よ」
「なんだよそれ…!適当なこと言ってるじゃ……」


「まって!」と夢香が割って入る。


「この痣、薬売りさんが付けたんじゃないの。それに、腕を力強く引いて貰えたから、危ないところで助かったの。だからそんな風に言わないで」

「…………」


夢香の必死な様子に、頭に上っていた血が引いていく。
それを察した薬売りは、翼へと近寄り夢香の手を引いているその手に触れる。


「もう、その位で。人通りが少ないとはいえ、路頭でする話でもない‥でしょう」


自分もまた乱暴に夢香の手を掴んでいたことに気付き、翼は直ぐに手を離した。


「……ごめん。俺、帰るよ」


顔を伏せた翼は踵を返し、走り去っていった。
残された夢香はどうすればよかったのかと思い悩み、自由になった手を所在なさげに見る。

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