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「邪魔‥してしまいましたか」
薬売りの言葉に驚き、顔を上げる。
「邪魔なんてしてない…!」
むしろホッとしてしまったのだ。翼の質問は、現実を見ろと言わんばかりの苦しいものばかりだったから。
不安な表情を浮かべた夢香を安心させるように、薬売りは先程翼が触れていた方の手に触れる。
「ならば、よかった。無視……できなかったので」
「それって、どういう……」
薬売りの表情は計り知れない。いつもならばこの位、真意が分からない会話で終わっていた。ただ今日は、翼の存在がそうさせたのか、夢香の質問に答えが返ってきた。
「追っ払いたい、と」
「え!?」
心底驚いた夢香を見て、薬売りはじと、と目を細める。
「何か、変ですか?」
「変、変だよ!」
「では、どこが」
「どこって言われても……普通薬売りさんなら干渉しないんじゃない?私を最初見つけた時、みたいに……」
薬売りの居た世に突然現れた夢香。女衒の男に連れられていくのを、薬売りは黙って見ていた。その時が普通だと考えれば変だ。
「確かに、変……ですね。少し、体調が悪い気がします」
「そうなの!?早く帰らないと!でもどう悪いの?頭痛いとか?怠い?」
薬売りに聞くにはそれこそ変な質問だが、心配で聞かずにはいられない。
「熱に浮かされている……ような」
そう言いながら、薬売りは顔を近付ける。
急なことに驚き赤らめた夢香の額に、コツリと額同士が触れ合った。
「おや、夢香さんの方が‥熱いようだ」
憎らしい。
余裕でからかっている薬売りに腹が立ち、夢香は少し動いてみせる。すると唇同士がちょんと触れた。
「ふん。奪っちゃったもんね」
毎日のようにからかわれているのだから、この位ご褒美を貰ってもいいだろう。そう思った夢香は腹癒せのように強がってみせる。しかしその顔は先程よりも赤く、暴れる心臓は歯止めが利かない。
「おや、おや」
「……っ。薬売りさんが悪いんだからね!」
次の瞬間には泣きそうな表情を浮かべる様子に、薬売りは先程された触れるか触れないかようなものではなく、重ねる口付けを返す。
「いや、夢香が、悪い」
互いに責任を押し付ける。
驚き固まった夢香の唇には、藤色のベニが残っていて。
薬売りは親指で優しく拭い、その鮮明に残った事実を消した。
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12.05.09 tokika