samurai7 | ナノ
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ユメカが上を見上げる。
昇降機はすでに遥か上の方にあった。
どうやら自分を追って下には降りてこないようだ。
究極とも思えた選択は間違いでは無かったと安心して、無理やり膝に力を入れて立ち上がった。


キュウゾウとは背丈が頭ひとつぶん以上違うため、ユメカが立ったとしても見上げる形になる。
感情が見えない表情のまま、瞳だけで見下ろしてくるキュウゾウに威圧感を感じ、苦笑いを浮かべた。


「ごめん、何度も助けてもらって。ありがとう」
「…………」


何も言わないキュウゾウの後ろから、ヒョーゴがゆっくりとした足取りで近づく。


「馬鹿め。キュウゾウが動かなければ今頃あの世行きだ」


ヒョーゴの言うとおり、とても危険な行為だっただろう。
ここまで無茶ができたことはユメカ自身驚きだった。
少なからず、ここの環境に触れて強くなっているのだろうか。
後先を考えていない馬鹿な行動をしているだけだと言われればそれまでなのだが。


「ほんとだね。怖かった」


ユメカの返答が呆れるものだったらしく、ヒョーゴは鼻で息を吐く。


「まあ、命拾いしたと思って精々逃げることだな。
お前を捕まえておく責任は俺達には無い。
キュウゾウ、行くぞ」
「待って!私も一緒に行く!」


ヒョーゴの眉間に皺が寄る。


「は?付いてこれると思っているのか」
「嫌がられたって、無理にでも付いていく」


ユメカにはそれしか仲間のもとに戻れる方法が思いつかない。
不安になりながらも強い視線をヒョーゴとキュウゾウに向けていたその時、
キュウゾウがユメカに背を向け歩き出した。
ヒョーゴもその様子を見て、小さく息を吐き踵を返す。


「…………」


先に進んでいくふたりを見て動けないでいると、
ヒョーゴが色眼鏡越しに目を細めてユメカを振り返った。


「無理にでも付いてくるのでは無かったのか」
「……キュウゾウに嫌がられると、やっぱり付いて行き辛いと思って」
「阿呆、いちいち言わなければ分からないのか。
あいつはアレで勝手にしろということだ」


勝手にしろ?
どんどん先に進んでいくキュウゾウは、
自分が付いてくることを拒否しているわけでは無いのだろうか。
ユメカはヒョーゴの言葉に意を決して、ふたりのもとに駆け寄る。


さすが大戦時代から一緒にいるだけあって、ヒョーゴはキュウゾウの意思が読み取れるらしい。
ユメカが近寄った時、キュウゾウは何も拒む姿勢を見せなかった。


(まるで……ヒョーゴはキュウゾウのことは何でも分かるお母さんみたい)


「ありがとう、お母さん」
「は?俺はお前の母になった覚えなんぞ無い」
「キュウゾウのだよ」
「それこそあってたまるか!」


強い口調で怒ってくるヒョーゴが可笑しくて、ユメカは声を出して笑う。
先を行くキュウゾウの表情は分からないままだが、今ので何を思うのだろうか、とユメカは少し前を歩く後姿を眺めた。


ユメカにはとてもキュウゾウの意思は図れないが、
これから理解していきたいと切に思う。
後姿を見るだけで落ち着かなくなる自分の胸に少しばかり苦笑しながら
ユメカは必死にふたりの歩幅に合わせて歩いた。


→第十三話へ
08.12.31 tokika/加筆修正:09.02.22-03.23

−あとがき−

暫くぶりの更新です。
なかなか更新出来ない状況で申し訳ありません。
しかしそんな中お待ちいただき、ご覧になってくださる皆様には、本当に心からお礼申し上げます。
ありがとうございます!


少し状況の説明です。
今回カンベエが「シチ、戦だ」と、シチロージに言ったのは、
人質となったユメカさんを置いていく意味が込められています。
戦となればひとりを見捨てて大勢を取らなくてはいけない部分があるのではないかと思いましたので。キクチヨの時もまた然り。
シチロージは副官だったから、その判断に驚きつつも、すぐ理解するはず。
しかし、カンベエの動かし方は難しいですね。はたしてこんなで良いのやら(笑)
カンベエがお好きな方にはお叱りを受けてしまいそうな浅い考えで申し訳ないです…!


それからかむろ衆。
すみません、急にかわいくなってしまいました!
萌えてきたら止まらない…!ロクタをどうぞよろしくお願いいたします(笑)


今回キュウゾウメインに進ませようと頑張っていましたが、
行き当たりばったりで喋らせることすらできませんでした…!
次回こそは。というか、内容的に次回はかなり重要な部分ですね。
頑張ります。

では!良いお年を!(現在2008年12月31日〜!)。


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