samurai7 | ナノ
12
84 / 177

暫く経って、ウキョウ達がユメカの元に戻ってきた。
そこにキララの姿は無い。
最初こそつまらなそうにしていたウキョウだったが、
ユメカがおとなしく待っていたことに気付き、にこやかに微笑んだ。


ボウガンがロクタからの伝言を伝える。
それを聞いたウキョウは、「父上が〜?」と、面倒くさいとでも言いたげな表情を浮かべた。
しかし言いつけには素直に従うらしく、直ぐに昇降機まで行くことになった。


昇降機は昇降列車と違い、人間を乗せるということだけを目的にしたものだった。
壁は無く、誤って落ちない程度に腰のあたりまでの仕切りがあるだけだ。
現代で言う景色が見えるエレベーターだろうか。


ウキョウとテッサイ、ボウガンとユメカが乗り込んだその時。


「テッサイ殿、我等はかのサムライを追うことにする」


ヒョーゴが昇降機には乗らず、口元に薄く笑みを浮かべながら言葉を発した。
我等……ということは、キュウゾウもだろう。
ヒョーゴの隣に立つ彼も、黙したままテッサイを見ていた。


「うむ……承知した。御前には伝えておく故、事を済ませて早めに戻られよ」
「承知」


昇降機に乗るために開いていた仕切りを、テッサイは閉めた。
目の前にできた柵によって、急にどうしようもなくふたりと距離が開いてしまったように感じ、ユメカはこのままだとまずいと不安を覚える。
そして咄嗟に思い立った。


――此処に逃げる隙があるかもしれない。


昇降機が昇っていく最中は逃げ道なんて無い。
その考えを利用して、飛び降りさえすれば
皆の反応が遅れ、うまく逃げることができるだろう。
上に昇っているから再び捕まる可能性も少なくなるし、自ら飛び降りるのだからボウガンにも迷惑はかからない。


ユメカは二度と飛び降りる行為はしたくなかったが、
その甘えに負ければ逃げきれるチャンスが他にあるとは考えにくい。
直ぐにカンベエ達に追いつくためには、
ここでどうにかしてキュウゾウとヒョーゴについて行かなければ難しいだろう。


テッサイが昇降機に備えられていたボタンを押すと、機械音を鳴らしゆっくりと上昇し始めた。
徐々に加速していき、下に居たキュウゾウとヒョーゴが小さくなっていく。
するとふたりは見上げるのをやめ、踵を返して徐々に離れていった。


――あ、怪我するだけじゃ済まないかも。


キュウゾウとヒョーゴが視線を外した今、みるみる離れていく地面がとても遠く感じた。
しかしもうそんなことは言っていられない。
一分一秒が命取り……地面との距離が更に離れるだけだ。
そう思うとユメカは目の前の柵を力強く掴み、飛び越えた。


「あぁーーッ!!」


飛び降りる行為はやはり予想外で、
近くにいたテッサイは手を伸ばしたが反応は追いつかず、ウキョウが大きな声を上げた。


その声で離れていたヒョーゴとキュウゾウが振り返った。
キュウゾウが目を見開き、咄嗟に駆け出し大きく跳躍する。


目を瞑ったユメカに襲い掛かる強い衝撃。
しかし地面にぶつかったものとは全然違うことが分かり、ユメカは両目を開いた。
真っ赤な色が視界を埋め尽くす。キュウゾウのコートだ。


人を抱えているとは思えない身軽な着地をして
キュウゾウはユメカを抱いていた腕をそっと離した。
そのままユメカはちゃんと立とうとするが、落ちる感覚にはやはり慣れず
力の入りきらなかった脚は崩れ、へたりと座り込んだ。


一方昇降機の中では、ウキョウが一連の様子を見て直ぐに口角を上げた。


「うわ、凄いね〜。ユメカくんは本当に勇気あるよ。
それとも助けてくれるって自信があったのかな?
とりあえずテッサイ、戻って」
「なりません若、なるべく早く御前のもとへ向かわねば」
「えー?ユメカくんを置いていけないよ」
「下にはキュウゾウとヒョーゴもおります故。ユメカ殿は手の内ではありますまいか。
どうかふたりにお任せ下され」
「任せらんないー」
「若……今は御前のおっしゃることを優先なさりませ」


その言い分に、ウキョウは不満そうな溜息交じりの声を出した。
しかし、仕方なくだが了承の意味もこめられていたのだろう、それ以上は何も言わなかった。


ボウガンはすっかり豆粒のようになってしまった下の様子、
正確に言えば赤い方を、じっと睨むように見ていた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -