samurai7 | ナノ
06
41 / 177

「昼間の…!!」


悲鳴にも似た声があがった。
ユメカを探し外に出てきたキララが
怯えた表情でキュウゾウを見ていた。
それを一瞥したキュウゾウは、背を向ける。


――行っちゃう!


「あっ…!あの!
私……ユメカっていいます!」


焦ったユメカは咄嗟に名乗っていた。
自分のことを少しでも知ってもらいたくて、
無意識に大きな声となり、キュウゾウの耳に届く。


ユメカから見たキュウゾウは
背を向けているため何も反応していないように思えた。
しかしキュウゾウは背後に意識を向け、
普段から何を映しているのか定かでない瞳を、後ろを伺うようにずらしていた。


一段と強い突風が吹く。
その瞬間、キュウゾウは宙を舞うように跳躍し、
屋根の上へ降り立つ。


「受け取れ」


何か白いものがキュウゾウの手から放された。
驚いたユメカは、風に流れて来るものに意識を向け、
手を伸ばし、しっかりと受け取った。


再び屋根を見上げる。
しかしもう、キュウゾウの姿は無くなっていた。
気を落とし、手元にある白いものを見る。
キララが慌てて駆け寄った。


「ユメカさん…!お怪我は……
何故あの様な敵に名乗ったりなんか…!」
「…………。
キララちゃん、今の人は敵じゃないよ」
「え……」


困惑するキララに、ユメカは笑顔を向けた。


「だってほら、私のものを届けてくれた」


ユメカの手の中には、小さな花が描かれた布。
時の流れによって、少しあせてはいるが、
粗末にされていないことは明確だった。


(キュウゾウの血がついてたはずなのに。
……洗ってくれた?)


想像できない姿ながら、ユメカは嬉しくなる。


――キュウゾウがハンカチを持っていたということは、
出会った記憶は現実だったことになる。
あの時のキュウゾウは今と比べて幼く思え、
やはり十年前の大戦が終わったあたりだったんだろう……。


キュウゾウにとってはただの布切れのはずなのに、
持っていてくれた。
その上自分のことまで、覚えていてくれた


『何故……変わらぬ』


あれはどういう意味だったんだろうか。
疑問は残ったが、
とにかくキュウゾウと接触できたことが嬉しくて、
ユメカは自分の頬が緩むのを感じた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -