samurai7 | ナノ
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岬の突端まで来ると、キュウゾウは背負っていた刀を下ろし、黙々と土を集め始める。
その様子を見守るユメカとサムライ達。程なくして小高く盛り上がった土饅頭に、キュウゾウは迷い無く二刀を鞘から抜き、突き立てるように刺した。それはユメカにとって見覚えのある墓の形。


「キュウゾウは生きてるのに……」


ユメカから漏れた声に振り向き、口を開く。



「俺は、サムライをやめる」



驚きから目を見開く。他のサムライ達も。ただカンベエだけは表情を変えずに見定めていた。



「サムライ……キュウゾウにとってサムライは、生きることだよね?」



ヒョーゴと決別し、生きてみたくなったとサムライの道を選んだのに。
今にも泣きそうな表情のユメカに、キュウゾウは首を静かに横に振った。



「ユメカと共に生きたくなった」



耳を疑うような言葉に、ユメカは息をするのを忘れる。
キュウゾウは静かにユメカに近付き、手を差し出した。



「共に生きてほしい」



視界が歪む。キュウゾウの差し出された手の輪郭が視界に溜まった涙で揺れ、まるで幻でも見ているようだった。その手が現実だと確かめるように、必死に両手で掴む。



「うん…!」



掴んだ手からは少し体温の低い温もりが感じられて、ユメカは安心して涙を零す。
もう何も迷わない。キュウゾウが居場所を作ってくれたのだから。



キュウゾウのサムライの墓を真剣に見つめていたヘイハチは、ふと微笑み、前に歩み出ていく。それに気付いたユメカは思わず声をかけていた。



「ヘイさん…?」



キュウゾウと同じ様に土をかき集めて行く様子に、皆が注目する。



「私も墓をたてます。過去の裏切り、そして仲間と共に生きた証として。私のサムライも此処に眠らせることにします。これからを生きる為に……」


過去の事は償いきれてはいない。何をしようと、償えることでは無い。
この自分の戒めはずっと残るが、前を向いて歩くことにした。そのために墓はヘイハチにとって決意の形だった。


キュウゾウの墓の右隣にヘイハチの墓。そして、キュウゾウの墓の左隣に……。


「ゴロさん……」


ゴロベエもまた、土をかき集める。


「某も、もはやサムライではない。芸人としての道を生きるつもりだ」


墓が並んでいく。そして土を盛っていくヘイハチの隣に、大きな影ができる。キクチヨがそこに立っていた。



「おっちゃま?おっちゃまも墓たてるですか?」



ヘイハチの横で佇むキクチヨに、コマチがその裾を掴んで問いかける。すると泣いているようにグスッと鼻を鳴らしたような音が漏れる。



「おうよ。俺様はサムライだが、これからは農民に戻るのも悪くねェと思ってな」
「オラはおっちゃま、どっちでもいいですよ。おサムライでも、農民でも、おっちゃまはおっちゃまです!」
「そうなんでぃ。俺様は俺様でござる!だからこそ決めた!サムライは仕舞いだってな!」


吠えるように言うと、一気に土を掻き集め大太刀を突き刺す。噴気腔から蒸気を吹き出すと更に言葉を付け足す。


「別にキュータロの真似した訳じゃねぇんだからな!俺様は最初っからサムライやめるって決めてたんだ」
「はいはい、分かったですよ」


コマチが宥める様にキクチヨを撫でる。照れくさかったのか、キクチヨはブシュッと蒸気を吐き出した。
ユメカは改めて真っすぐ前を向く。そこに並ぶのは四つの墓。
この光景は絶対見たくないと思っていた。しかし墓は彼らの決意の証となった。


「嘘みたい……こんなに嬉しい光景になるなんて」


声が震える。墓の前に彼らは存在している。皆表情は晴れやかだ。


「SAMURAI7……全員生還おめでとう」


小さな呟きに、キララが視線を向ける。
ユメカはにこやかな表情を浮かべていて、それを見たキララの表情もまた綻んだ。


此処はカンナ村にとって大切な場所となるだろう。
農民とサムライが結託した事実は決して色あせる事は無い――。
サムライが守ったこの地を守ることを誓い、キララは今この瞬間を瞳に焼き付けた。



一人の少女の存在に感謝しながら。




→エピローグ
14.10.30 tokika

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