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水分りの家を出て、ユメカは鎮守の森の奥へと足を運んだ。確信は無いが、花畑になっている場所に行けばキュウゾウに逢える気がした。
「いた……」
開かれた視界に、月明かりに照らされた無数の白い花が咲き誇る。その花々に埋もれるように、キュウゾウは仰向けになり目を瞑っていた。まるで以前ユメカが眠っていた時のように。
彼が仰向けになっているのは、夜を共にした日以来の光景で、思わずドキリとし頬に熱が集まった。
ひとつ深呼吸することで乱れた心を少しでも落ち着かせ、彼のもとへ近付いていく。
「キュウゾウ」
眠っているのだろうか。傍らに座り声を掛けてみたが、反応は無く未だに瞼は閉じたまま。
顔を覗き込めば、頬にできた新しい傷跡に目がいった。しかし頬だけでは無い。紅い服の下にもまた、包帯が巻かれている。
でも、彼は生きている。それが嬉しくて、ユメカはこみ上げてくるものが頬を一筋流れたのが分かった。
「キュウゾウ、起きて」
声が聞きたい。貴方の瞳に映りたい。その思いで声をかけ、彼の顔に近付いていく。
そして自然と口づけを落としていた。するとキュウゾウの腕がユメカを引き寄せ、口づけを深いものへと変えられる。舌を絡めれば脳が麻痺し、行為に夢中になっていく。気付いた時にはキュウゾウが上体を起こし、その腕にユメカは体重を支えられていた。
唇が離れ見つめ合うと、ユメカは急に恥ずかしくなり目をそらしてしまう。でも想いは高まる一方で、彼の胸元へ額を寄せた。
「どうして、ここに居たの?」
「待っていた」
キュウゾウが再びユメカを支え、花の上へ優しく押し倒す。
「ユメカを……」
再びキュウゾウの深紅の瞳に見つめられ、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。キララの言葉が蘇った。
――キュウゾウ様も、ユメカさんのお側にいたいのだと、私は思うのです。
「……嬉しい」
ユメカは頬を赤らめながら表情を緩める。キュウゾウもまた、瞳に強い熱を宿しながらも優しげな眼差しを向けた。程なくして再びキュウゾウの顔がおりてくる。唇を重ねると思い目を閉じれば、頬を髪がくすぐり、耳元に唇が触れる。
「ちょっ……っ!」
一気に体全体が火照り、のしかかってくるキュウゾウを少し押し返そうと抵抗を見せる。そんな弱い力ではビクともしないわけだが。耳が弱いと分かっていてここを狙うのは反則だった。
「まって…!」
「待てぬ」
「……っここ、外なのに……風邪ひいちゃうよ」
拒否の理由を間違えたかもしれない、そう思った。
「寒いか」
頷くことができない。キュウゾウの口の端には笑みが浮かんでいた。
なぜならユメカの全身は火照り、キュウゾウの触れる手にはすでに熱さが伝わってくるからだ。
秋も深まり、寒い夜のはずなのに。
「いじわる」
ユメカの抗議の言葉を、キュウゾウは塞ぐように口付けた。