samurai7 | ナノ
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秋の夜風が熱をさらっていき、すぐに肌寒いと感じる。あんなに熱く感じていたのに。
草花の上で散らかってしまった着物をたぐり寄せ、露になった肌を覆う。そして困り果てた。体中が土と草花にまみれているのだ。


「キュウゾウ……お風呂入らないと。でもキララちゃんのとこに、こんな状態で戻るのも変だよね……」


そう言ってキュウゾウを見ると、コートを羽織り、立ち上がった。


「来い、良い場所がある」


キュウゾウの後に続き更に森の奥へと進むと、切り立った崖が表れる。20mはあるだろうか。そこでキュウゾウは立ち止まり「この上だ」と言う。


「ええ!?どうやって登るの?」


岩がごつごつとしてはいるが、とても登れるようなものではない。いったい何が上にあるのだろうと疑問に思いながら眺めていると、後ろから突然横抱きにされる。


「捕まっていろ」


ドキリ、と胸が高鳴る。アヤマロ御殿から連れだしてくれた、あの時が蘇った。あの時は不安でいっぱいだったのに、今は安心感に包まれている。頷いて首元に抱きつくと、キュウゾウは飛び出た岩を足場にしながら軽々と跳躍だけで登っていく。あんなに高くて上がどうなっているのか見えなかったのに、次の瞬間にはその頂上に降り立っていた。


「すごい……」


目の前の景色を見て呟く。八畳分程の広さに、乳白色の湯が広がっていた。うっすらと湯気が立ち上る湯にそっと手をつけてみれば、少し温度は低めだが温かくて笑みがこぼれる。


「こんなとこに温泉があったなんて!よく見つけたね」


早速、適当に着ていた着物を脱ぎ、足をつけてみる。じんわりと温もりが染み込んでくるのを感じ、ゆっくりと座る。すると肩までお湯につかり、深さは丁度良かった。
それに続くようにキュウゾウも湯へと入ってくる。同じ様に肩が並び、ユメカは笑みを浮かべた。


「気持ちいー……」


伸びをしながら空を見上げれば、美しい星空がさっきよりも近く感じた。まるでここが世界の中心になったみたいに思え、思わず立ち上がる。ゆっくりと仰ぎ見て視線を下ろしていくと、はっと息を呑んだ。ここからカンナ村の景色が一望できたからだった。


「まだ、煙があんなに……」


崖の下からは黒煙が上がり、橋の向こうには野伏せりの残骸が折り重なっている。一方で村の中心は宴が続いているのだろう。多くの光が灯っていた。
明暗がはっきりと分かれた光景。今日多くの命が散り、戦に勝った者達は未来を得た。


「…………」


立ち尽くしたままでいるユメカの異変に気付き、キュウゾウもまた立ち上がりユメカの視線の先を見る。


「何を、思う」


キュウゾウの問いに、ユメカは目を伏せる。


「平和がいいな。争いは絶対悲しいことが生まれるから嫌い……」
「…………」
「でもね、勝ったから本当に良かったとも思う。キュウゾウがいる。皆がいる。私が望んでた未来に一緒に来れたんだって……」


しかし、現実の光景はこれだ。必死でもがいたのに、何もかも美しくは終われない。角度を変えてみれば、とても悲しみが溢れている。


ユメカの震える肩に気付き、キュウゾウは後ろから抱き締める。その温もりに唇がわななく。


「キュウゾウ、ずっと……っ」


思いが溢れて言葉にならない。しかしその意を汲んで、キュウゾウは頷いた。
小さく震える体を更に強く抱き締める。
このまま時が止まってしまえばいい――と。


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13.08.01 tokika

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