samurai7 | ナノ
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「……っ、私はウキョウを討つため、天守閣へ向かう。ユメカ殿はどうか無事に脱出してくれ」


踵を返し足早に去ろうとしたカツシロウを、ユメカはその手を掴み引き止めた。焦燥しながら振り向いたカツシロウに振り絞る思いで問う。


「交わした約束、覚えてる?」


何を言っているのか分からないといった調子で眉根を寄せたカツシロウ。ユメカは願いを込めるように言葉を続ける。


「カッツンにお菓子を貰った日のことだよ。鉄砲を使わないでほしい、って……」
「……ああ。約束した。覚えている」


互いの視線が交差する。あの日を思い返し、一瞬切ない思いに駆られた。あの時のカツシロウの瞳はとても澄んでいたのを覚えている。サムライに理想の姿を描き、人のために戦い強くありたいと行動していたからだろう。
それが今、サムライとして行動すればする程、疵をつくり自らを堕とすことになっていて、カツシロウの瞳は深い闇を抱えているように思わせた。


ユメカは鉄砲をカツシロウが使ったらどうなってしまうのかを言わないといけないと思い、口を開く。しかし、言えずにまた閉じてしまった。口にしてしまうことが逆に恐ろしかった。それが現実になってしまうような気がするから。
引き止めたカツシロウの手を見つめ、不意にそれがキララの手と重なった。彼女が共に堕ちると言った時に、彼のこの手に触れたのだろうか。


ハッとし、手を握っていない方の手で自分の首にかけていたものを取り出す。
キララと同じような形をした巫女の石。一度失った光は元に戻ることはなく、只の白い石となっている。それをカツシロウの右手首にくくりつけた。キララの水分りの石のように。


「お願い、約束だよ」
「……武士に二言はない」


どちらともなく手を離し、カツシロウの腕に残った導きの石が揺れた。
カツシロウが再び踵を返し、その背に向かって声を掛ける。


「あともうひとつ。キュウゾウに会ったら伝えてくれる?私は都から脱出した、って」
「承知。必ずや伝えよう。だからユメカ殿も無事に脱出してほしい」
「うん、約束だね」


カツシロウは今度こそ刀を握り直し都の奥へと消えていった。一通り見守っていたボウガンがユメカを見る。


「いいのか?ついて行かなくて。キュウゾウと逢えるかもしれないのに」

「うん、いいの。カツシロウを信じるって決めたから。
それに私がついて行ったって、邪魔になるだけだよ」

「……脱出でいいんだな?」


念を押すボウガンに、ユメカは強く頷いた。


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12.04.15 tokika

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