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カツシロウひとりでヘイハチを援護するのは難しかった筈だが、今はボウガンがいる。ヘイハチがこのまま傷を負わなければ、外から攻撃を仕掛けてくる野伏せりの斬艦刀に挟まれてしまうことは無いのだろうか。もうヘイハチの未来も変わっているのだろうかと。
カツシロウが攻撃し損ねた敵をボウガンが撃つ型になっている時だった。
「ヤバッ」
ボウガンの上げた声に驚いたユメカは、何が起こったのかと顔を覗かせ視線の先を見る。すると鉄矢を眉間付近で素手で受け止めた者が、ゾクゾクとしながら深い息を吐いていた。
「おぬし、敵を間違えておるぞ」
「悪ィおっさん!まさかそっちから仲間がくるなんて予想外だったもんでね」
受け止めた鉄矢を素早く後ろに回し、背後から迫ってきた敵のこめかみへ突き刺したゴロベエがユメカを見る。
「ユメカ!無事であったか!キュウゾウ殿がお主の事を捜しておるぞ」
「……っ!」
キュウゾウの名を聞き、胸が苦しくなる。この戦で最後になんてさせるものかと。
ゴロベエの力強い存在にも安心を覚えた時だった。数々の柱に爆弾を設置しているヘイハチからくぐもった声が漏れる。
何故、と信じられない気持ちでヘイハチを見れば、苦しそうに身を屈める姿。辺りを見回せば、倒れているはずの都の兵が銃口を向けていることに気付いた。
カツシロウもそれに気付き、倒れた背に刀を突き刺す。動揺しながら撃たれたヘイハチを見るが、身を屈めていたのは一瞬で、点々と血を流しながら作業の手を止めてはいなかった。
「ヘイさん!」
ユメカが反射的に駆け寄ろうとして、ヘイハチが怒ったように声を張り上げる。
「来ちゃ駄目です!」
「……っ!」
作業の手は止めずに、今度は息を切らしながらも穏やかな声を出す。
「来ちゃ、駄目ですよ。約束でしょう。……もう無茶な事は、しないという」
ヘイハチの言葉に止められたユメカは、ぐっとこらえて拳を握る。
戦えない自分が近寄ってはいけない。ならば。
「ゴロさん!ヘイさんの近くに行って援護して!お願い!」
確かに無茶なことをしないと約束した。しかし同様にヘイハチを死なせないということも約束した。
一度死線をくぐり抜けたゴロベエがユメカの意図に頷き、ヘイハチの側へ行こうとした時だった。
ヘイハチがマサムネから貰ったボーガンを手に取り、外へ向けて撃った。ゴロベエの目の前に斬鑑刀が滑り込んでくる。
「ヘイハチ!」
衝撃で床が破壊され、煙でヘイハチの姿が隠れる。しかしそれも一瞬で、外から流れ込んでくる風ですぐに状況は明らかになった。
斬鑑刀と柱の間に挟まれ、身動きが取れない姿。
「ヘイさん!や…!」
ユメカはショックのあまり、足元から崩れそうになる。
ゴロベエが斬鑑刀を除けようと手を掛けるが、軋んだ音を鳴らすばかりで、巨大な刀はビクともしない。
「ゴロベエ殿……、後は、頼みます…!ボウガン殿も……ユメカを連れて、離れて下さい…!」
ボウガンは顔面蒼白になっているユメカを抱え、爆発に巻き込まれない位置まで移動する。
「ゴロベエ殿も離れてください…!爆発に巻き込まれてしまいます…っ」
「そういうお主が巻き込まれるつもりであろう。此処で某が守ってしんぜよう」
「何を…!ユメカに助けられた命を棒に振るつもりですか!?」
「それはお主にも言えることだろう。
生きる気があるならば某を信じろ。某ももう、屍を背負うのは御免なのでな」
「………っ」
ゴロベエの言葉に揺れ動かされるように一瞬ユメカを見て、思わず口元に笑みを浮かべた。
「最後に見たのがユメカの泣き顔なんて、私も御免ですね……。
ゴロベエ殿、かたじけない。……援護頼みます!」
「ははは!そうこなくては!承知した!」
ゴロベエの笑い声を合図に、ヘイハチが左手のスイッチを頭上に掲げた。
「いきますよー!」
カチリという軽い音とほぼ同時に、爆発が起こり爆煙で視界を奪われる。
「ヘイハチ殿!ゴロベエ殿ーー!!」
カツシロウが叫び、機関室の床が支えを失い墜ちていく中から、ふたりの姿を確認しようと視線を彷徨わせる。
ユメカも身を乗り出そうとするが、ボウガンの腕に遮られた。
「駄目だ!落ちるぞ!」
「……っ!」
ヘイハチの叫び声は聞こえなかった。胸が潰れそうになりながら、カツシロウの方を見る。
「ヘイハチとゴロベエは!?いた!?」
「いや……。姿は確認できなかった……」
苦しげに声を絞り出すカツシロウだったが、その言葉にユメカは逆に目を見開く。
「見えなかったの?」
「ああ……」
希望の光が見えた。本来ならばヘイハチは瓦礫に完全に挟まれていたのだから。