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(ちょっとちょっと!どういうことー!?)
驚きのあまり眩暈さえ起こる。
しかし傍を通るおばさんが目に入り、夢香は咄嗟に話し掛けた。
「あ、あの!此処って何ていう所なんですか!?」
「何だいあんた、随分変わった格好してるねぇ……此処は虹雅峡だよ」
「……!そ、そうですか。有難うございます」
おばさんは不思議そうに夢香を見ながら去っていった。
一方信じられない興奮から夢香の動悸が少しずつ早くなる。
(今私が居るのはSAMURAI7の世界なんだ…!)
ぎゅっと手を握り締める。するとその感覚はちゃんと伝わってきた。
リアルに頬をなでる風も感じ、夢ではないと確信する。
「でもこれからどうしよう……」
行き場所が無い。
それに実際あまり治安が良い世界とは言えないから不安を感じてしまう。
「SAMURAI7のキャラたちに逢えないかな…」
今がアニメのいつなのかも分らないうえ、
虹雅峡というところは見るからに広いためその望みは薄く思えた。
だが今の夢香にはそれしか考えられなかったため、キャラを求めて歩き出した。
がやがやと賑わう露店。
歩いた先に、家が破壊されているもののホッとしたように赤ちゃんを抱く夫婦がいた。
(これって……第一話の押し込み事件のあとだよね!?)
キャラ達に会える可能性が高いことが分かり、夢香の胸が弾む。
しかしもう押し込み事件は解決したようで、周りを見ても主要人物のキララやカンベエ、カツシロウやキクチヨ達は居なかった。
キクチヨ以外はカンベエを追いかけた事を思い出し、意気込む。
「探さないと!」
「野伏せりを斬る……、か」
(この声……!)
探すと決意した夢香は虹雅峡中を闇雲に走った。
丁度街の片隅まで来たときに、聞いたことがある話し声が耳に入る。
慌てて沢山のスクラップの陰に身を隠し、声のした方を胸が高鳴る気持ちで覗いた。
すると、キララたちがカンベエに野伏せりを斬って欲しいとお願いしている所だった。
「……!」
(うわわ本物……!)
目の前でアニメで見たお話が繰り広げられていく。
夢香はすっかり感動してしまい、じっと見つめた。
一通り話が終わり、断ったカンベエが立ち上がった。
「娘。水分りの巫女、と言ったな。苦い水にあたることもあろう」
そのまま夢香が居る方へと歩を進める。
「…………」
カンベエが近付いてくる現状に夢香は頭が真っ白になり、物陰に身を隠したまま動けなかった。
その横をカンベエが通り過ぎていく。しかしカンベエは何者かがこちらを伺っていたのを分かっていたらしい。
物陰に隠れた夢香へ一瞬視線を寄こし、何も言わずに去っていく。
「ああ……!」
カンベエと目が合い、心底後悔した。
これでは覗いていた変な人というイメージがついてしまっただろう。
ここでカンベエに話しかけなければ、どこで話しかけられるというのか。
最初から思うように行動できなかった自分に呆れ、頭を抱えた。
スクラップの隙間で小さくなっている夢香が見えたキララは、驚いたように近寄った。
夢香は先程のこともあり、いきなり目の前まで来たキララに思考が追いつかずに目を見開く。
キララは夢香を見るなり、ほっとしたような笑顔を浮かべた。
「目を覚まされたんですね」
「え……」
「あの、先程倒れている貴女を宿までお運びしましたので。お体の具合は大丈夫ですか?」
(えええ!?キララちゃん達が私を…!?)
「あ…っと。はい!全然大丈夫です!」
暴れる心臓と脳内を必死で落ち着かせながら、答えを返す。
まさかキララが自分を拾ってくれていて、もう接点が生まれているとは思ってもいなかった。