THE LAST BALLAD | ナノ

side.L "survive this life alone"

 憲兵の山狩りが始まる前に迅速に下山したウミとリヴァイ。その後ストヘス区で見張りを続けていたジャン達104期生、そしてハンジとモブリットを除くハンジ班と無事に合流し、ウミは生きて山を抜け出すことに成功した。
 そして、エレンとヒストリアを乗せた馬車がレイス家の領地へ向かうためにこのストヘス区を通ると睨んだリヴァイの読みは的中するのだった。
 エレンとヒストリアの馬車の追跡を放棄したことで一度は見失いかけたが、その不始末をストヘス区での尾行が功を奏した104期生のお陰でエレンとヒストリアを乗せた霊柩馬車がある宿屋に泊まったことを発見することが出来た。

「ジャン、無事だったね」
「ああ。下見も終わった。あっちの道は使えそうだ」
「そうか、」

 一般人に成りすまして潜伏していたアルミンたちの元に深く帽子をかぶり通行人に成りすましたジャンが戻って来た。
 リヴァイ以外の顔が割れていないミカサとアルミンとサシャとコニー、同期達が集まりリヴァイのへたくそな似顔絵が書かれた手配書を見つめている。
 宿屋に停泊していた馬車が自分達の真の目的であるレイス家の領地ロッド・レイスの元に向かうべく動き出す瞬間を今か今かと待機していた。
 下見を終えたジャンが木箱に座るアルミンにそう告げる。いよいよ尾行作戦の始まりだ。しかし、一同の顔色は浮かない。

「……調査兵団はもう解散状態だな……」
「あぁ……もうダメな気がするぜ……何もかも……。俺はてっきり巨人に食われる最期を覚悟してたんだが、まさか人から恨まれて晒し首だとはな……」
「そんな……まだそうとは決まってないよ……団長がこのまま大人しく濡れ衣を着せられて兵団を畳むはずがないよ! そりゃあ会長が殺されて一時はエレンとヒストリアを見失って……もうダメかと思ったけど……兵長の言う通りストヘス区の張り込みが功を奏したじゃないか! 絶対あの葬儀屋に間違いないよ! 2つの棺と一緒に宿に泊まるなんてありえないから」
「それに……レイス卿さえ押さえれば……もしくは……この壁が造られた経緯や技術を残した記述がどこかにきっとある! エレンの巨人を「硬化」させる方法も…きっとどこかにあるよ!」
「それがすべて上手くいったとしても……俺は……やっぱ御免だぞ、人殺しなんて……もしあの兵長に殺せって命令されてもできると思えねぇ」
「俺もだ! 従わねぇやつは暴力で従わせればいいと思ってんだリヴァイ兵長は、ヒストリアにやったみてぇに!」
「それも商会にはあんなにへりくだったのにですよ!? ユミルと離れて抜け殻みたいになったヒストリアにはあんな脅し方をして……私はどうしても許せませんね。きっと女王になった後も手駒として扱いやすいようにしたいんですよ!」
「……とにかく俺は……こんな暴力組織に入ったつもりはねぇ……あん時俺は……人類を救うためにこの身を捧げたんだ、どこぞの燃えカスに笑われねぇためにな……それなのに」
「みんな、だ……だめだよこれからって時に気に迷いがあったら! ねぇ? ミカサ」

 仲間割れはまだ続いていた。ましてここに当の本人が居ないから尚事みんな言いたい放題だ。
 このまま自分達は分裂してしまうのだろうか。アルミンが必死に止めようとミカサにも訴えかけるがミカサは馬の鬣を撫でていたブラシの手を止めると顔色一つ変えずに静かに告げた。

「ここにウミが居たらきっとあなたたちは怒られてると思う。私は……あのチビの異常性には最初から気付いてた。けど、ウミを見つめるあの目はいつもウミを思っている。私にはわかる。エレンとアルミンと三人で協力してウミに近づく男は皆追い払ってきた……。リヴァイ兵士長は許せない。だけど、ウミが選んだ人を私は信じる。みんなで一つになってこの作戦をやらなければならないと、ウミが居たらきっとそう言う筈だから。それに…この現状を乗り越えるためには……リヴァイ兵士長に従うのが最善だと思ってる。兵士長からの伝言はこう、これからは巨人だけでなく、人と戦う事になる。できれば皆も、そうなる前に腹を決めてほしい」

 ミカサは決意を秘め、静かにそう呟いた。今、自分達調査兵団の立場が危ぶまれている中で生き残るために、全てはウォール・マリア奪還作戦で万全な体制をこの壁内での調査兵団の立場を確固たるものにする為にこのクーデターを成功させるためなら争いを避けては通れない。
 訓練兵時代、そして最近まで巨人殺しの為に心臓を捧げて壁外を疾走していた自分達が今はもしかしたら同じ巨人の脅威に晒されている人を殺すかもしれないという現実に直面している。
 浮かない顔の全員の気持ちは今もまだ定まっていない。
 迷いは剣を鈍らせると言うのに、かつての同期の正体がこの壁の世界の破滅を望む知性を持った巨人だった。悲しい戦い、決別。そして激戦に傷ついた心を引き連れて。



――ストヘス区
 葬儀屋の動きを様々な位置から見張るリヴァイとニファの姿があった。頭まですっぽりと雨具で身を隠している。ケイジはその馬車が宿屋から棺を運び出す瞬間を逃さないように通行人に成りすまして建物の影から見ている。
 アーベルも屋根の近くで待機しており、一同はその馬車に載せられている棺桶の中身がエレンとヒストリアであると確信していた。
 その彼らの元に、立体機動装置のアンカーが突き刺さると屋根の上にウミが着地した。腹の傷は応急処置のお陰かもう大丈夫そうだ。

「お待たせ、チェックアウトしてきたよ。エレンとヒストリアの棺で間違いないよ」

 ウミは宿屋で一般の宿泊客に成りすまして無事に宿泊を終えて合流した。髪を切ったおかげで元「死神」分隊長として名を馳せた彼女。どうやらウミは未だ顔が割れていないようだ。怪しまれずに宿屋を後に出てきた。

「ウミさん、よかった、お帰りなさい」
「様子はどうかな?」
「異常はありません。間違いないです、棺桶を2つ……馬車に乗せます」
「ああ、もう間違いねぇな……」
「昨日ヒストリアとエレンの分もちゃんと食事も睡眠も与えられていたし、ひどい目には合っていないみたい……」

 壁内に欠かせない大事な器と力だ。
 丁重に扱うのは当たり前だろう。静かに建物の屋根上から様子を探り確実にその現場を押さえる。

「奴らが死体と寝る趣味を持つ変態じゃなきゃ……あれは第一憲兵で…棺の中身はエレンとヒストリアだ」
「……もう少しで見失うところでしたね。でも、兵長がこの街を通ると踏んで先回りしたおかげで無事にたどり着けそうですね」
「でも……その割には浮かない顔してるよ、」
「……いや……(何か妙だ……今までの第一憲兵の手際とは違うようだ。奴等は気位が高い、素人は使わない。リーブス商会をグルだと睨んだあたりといい……どうも思考が俺と被る。俺と言うより、奴か)」
「兵長、もうすぐ馬車が移動します」
「オイ、ウミ。今度こそヘマはすんじゃねぇぞ」
「はいはい」

 そう告げ、静かに移動を開始し、集団で馬車を追いかける。合図が行き交う中でリヴァイはある男の存在を思い出しながら望遠鏡で馬車の様子を見張るニファに問いかけた。
 それはかつての幼少の頃の自分の記憶。また蘇るその長身の男。

「兵長、奥さんに少し厳しいんじゃないですか?」
「当たり前だ、俺は公私混同はしねぇ。それより、ニファ、「切り裂きケニー」を知ってるか?」
「え? 都の大量殺人鬼ですか?憲兵が100人以上ものどを裂かれたという…でもそれは何十年か前に流行った都市伝説ですよね」
「そいつはいる。すべて本当だ」
「え?」
「ガキの頃、ヤツと暮らした時期がある」
「えぇ!?どうしたんですか急に…こんな時に冗談言うなんて…」
「(そうだ、奴は平気で素人を使う。思えば俺の思考はヤツの影響が強い…目標を集団で尾ける時は……両斜め後方と…見晴らしのいい高台――)」

 一方、立体機動を使いリヴァイとニファの向かい側の屋根に着地したウミはリヴァイの肩越しに誰かが屋根を静かによじ登って来たのを見たのだ。

「え……」

 登ってきた人物は深くハットをかぶり、その口元には弧を描き、そして、両手には見たことのない二丁の銃を装備している……。その人物はウミと目が合うなりニタァ……とほくそ笑んだのだ。
 それは紛れもなくディモを殺した……あの鋭い眼差し。

「(ケニー!!! そんな、まさか……!!)伏せて!!」

 突如リヴァイ達の死角から姿を見せたケニーが向けた二丁拳銃はリヴァイとニファの頭部に向けられている。マズイ!!弾け飛んだように叫んだウミの声にリヴァイも自身の身体に流れる血の本能で自分達に向けられている凶器に気が付いた。

「ニファ――!!」

 ウミの切羽詰まった声、背後に迫る人影、向けられた二丁拳銃。瞬時に気付いたリヴァイがニファへ警鐘を鳴らし叫んだ声よりも先にガウン! ガウン! という轟音と共に発砲された散弾が全てを破壊しつくす勢いで炸裂した。

「っ! ああああっ!」

 撃ち放たれた散弾が弾ける、轟音と空中で分裂した散弾の衝撃をもろにくらって吹き飛ばされたウミ。
 そのまま上空の煙突にダァン!!と背中から激しく叩きつけられてそのままうつぶせのまま屋根の上から転げ落ちるように真っ逆さまに転落したのと同時にリヴァイとニファに向かって放たれたケニーの散弾はウミの声にとっさに屈んだことでリヴァイ自身の頭上ギリギリを掠め、フードが落ちた。
 それは自身の頭の代わりに煉瓦造りの煙突を木っ端みじんに破壊し、もう一つの凶弾は先程まで会話していたニファの愛らしい微笑みを一瞬にして粉々に潰した。
 赤い血が飛び散る。まるで雨のように。ニファのクライスよりも明るい夕日のような髪も全て熟れた赤い果実が地面に落ちた時のように一瞬で吹き飛ばされたのだ。
 地面に落ちたウミを確認する間もなくウミが、ニファが、一瞬にして奪われた命、リヴァイの驚愕に見開かれた瞳に映るのもの。
 今まで幾度も命が散る瞬間を目の当たりにしたが、深い深い苦しみが今も脳裏に浮かぶ男の記憶にまだ新しい女型の巨人捕獲作戦での巨大樹の森で無残にも殺された自身の選別した精鋭である仲間達の死に顔を否が応でも思い起こさせた。

「……は、あっ! ――……」

 言葉にならないまま、驚愕の眼差しでリヴァイの目が見開かれ、そして硬直する。また、自分の目の前で部下の尊い命が奪われたのだ。その銃撃を直に食らったウミの小さな身体はその衝撃で屋根の上から転がり落ちるように吹き飛ばされたのを尻目に見たリヴァイの顔が歪んだ。
 ハンジの大切な部下が、確かにニファだった物言わぬ亡骸の血が壁に飛び散り、そのままズズズ……と静かに屋根の上を滑り動かなくなる。もう彼女が誰なのか認識することも出来なくなってしまった。
 凶弾を受け、愛らしい顔面を吹き飛ばされたニファ。飛び散った生々しい脳味噌の一部や肉片、そして真っ赤な鮮血がリヴァイの眼差しに虚しく映る。
 ドタマを撃ちぬかれ、顔面の原形は無く、きっと本人は自分が殺された事さえも理解する前にその命を散らされた。とっさにその背後の敵の襲撃を避けるかのように煙突の陰に身を潜めるリヴァイ。
 その近く、背後から突如聞こえた何時も落ち着いているリヴァイのニファを呼ぶただならぬ声、そして、二発の銃声。放たれた散弾の衝撃で停まっていた鳥たちが一斉に空へ羽ばたいた音に気付いたアーベル、そして馬車の近くの建物に居たケイジにも突然その凶弾が放たれたのだ。

「きゃあああああ!!!!」

 ニファの頭を吹っ飛ばしたのと全く同じ装備をした兵士に撃ちぬかれそのまま屋根から落下して地面へと叩きつけられたケイジ。
 たまたまそこを通りかかった母娘は突然落ちてきたゴーグルごと破壊されたアーベルの血まみれの姿に絶叫した。
 本当にあっという間だった。始動した作戦、その一瞬のうちに全員がその凶弾に頭を木っ端みじんに破壊され、ただ一人生き残ったリヴァイだけが呆然と立ち尽くしていたのだった。
 尾行する予定の葬儀屋の馬車は何事もなかったかのように走り去ってしまう。
 早く追いつかなければ見失ってしまう…見失えば本当に調査兵団はもう後がなくなる。
 本来の作戦が始動する前にまさか先に襲撃されるなんて。地面には頭の半分を吹っ飛ばされたケイジの物言わぬ無残な亡骸が転がっている。

「よぉ……リヴァイ……大きくなったかぁ???」

 鈍い金属音が聞こえた方向に目を向ければ、トレードマークのハット。そして塔のように大きな長身の身体、挑戦的な瞳、そして何よりも特徴的な低く、人を小馬鹿にしたようなその声。

「だから言っただろうが……女に心を許すなって……女は弱ぇんだからよ……お前じゃ守り切れねぇだろうが、しっかしあっけねぇな、もう死んじまった。せっかく二回も見逃してやったのに」

 幼少から見知った自身に処世術を施し、そしてまた人並みの中に姿を消していった馴染の男の姿にリヴァイはこれは夢でも見ているのかと錯覚したが紛れもなく「彼」だった。
 使用済みの弾丸の入った銃身を外し、太腿に装着した予備のカートリッジを再びスライドさせてガキイン!!!と装着して両手にある二丁の銃を構えたケニーが「対人立体起動装置」のアンカーを煙突に差し込み、屋根を蹴るとそのまま弧を描き身を潜めていたリヴァイへ向かってくる。
 そのケニーの背後から次々とガスを蒸かしながらあちこちから音を立てて立ち上るガスをまき散らしながら取り囲んで来たのは自分達と同じ立体機動装置、しかし、ブレードではなくケニーと同じ二丁の散弾銃で武装した兵士たちだった。

「いやっほぉぉぉぉぉぉ!!!! お……!?」

 煙突に潜むリヴァイを発見するケニー。お互い何年ぶりの再会だろうか、思いがけぬ再会はお互い敵同士として、だった。

「お前もあんまり変わってねぇな!?」

 両手に大型経口の二丁拳銃を持ちこちらに向かって男が叫ぶ。部下を、ウミを殺した男は自身のかつてのーリヴァイの慟哭がストヘス区の街に響き渡った。

「ケニ――!!!」

――俺の手で。
 昨晩の約束は撃ち放たれたその弾丸により粉々に砕け散る。この世界はどれだけの痛みを持ってこの心を壊すのだろうか。また命がこの手から零れ落ちて消えた。
 ハンジに託された優秀な部下たちが殺されてしまった。姿を見せたケニー・アッカーマンに応戦すべくブレードを引き抜いたリヴァイは慟哭と共にかつての師である男との対面での突然の再会と始まる激闘の火蓋が切って落とされた。

――「隣にいる奴が……明日も隣にいると思うか?」

 昨日まで確かに存在していた愛しいその温度を確かめた。もう二度と離れる事はないのだと。五年前の悪夢はもう消えた、ウミはこの腕の中に帰ってきてくれた。もう二度と、今度こそ。
 張りつめ緊迫した空気にいつ殺されるか、明日をも知れぬ命の中で交わした約束は無残にも凶弾により破壊された。口うるさく自身に説いていた「女に心を許すな」男はいつか自身がこうなる事を見越していたのだろうか。この残酷な世界では、愛する者と永遠に歩むことは到底かなわない願いなのだと。
 ましてこの今こうして調査兵団が置かれた現状では生き残る事でしか無理なのだと。誰かに殺される終わりなど迎えたくはない。いつ死ぬかも誰にも保証できない未来の中で人生の終わりはせめてこの手で共に迎えると誓った、その誓いは、願いは全てリヴァイの手のひらから零れ落ちた。
 屋根の上から落ちていくウミの最期の顔が忘れられない。ヒュンヒュンとリヴァイの耳にワイヤーを巻き取る金属の音とガスの排出音があちこちから聞こえる。その数少なく見積もっても10人、たとえ立体機動装置の扱いに長けた調査兵団だとしてもあの銃口から逃れる事は不可能だ。明らかに多勢に無勢。
 リヴァイはそれでも作戦の続行をしなければならない、たとえまた誰かを犠牲にしても。思案していた。
 その上空、リヴァイの逃げ場を奪うかのように、周囲をぐるっと囲むは軽々と身軽に立体機動装置で襲い掛かるケニー率いる武装集団「対人制圧部隊」
 それは憲兵団でも秘密裏の立体機動装置を巧みに操り巨人たちを屠る自分達に対抗するような恐ろしい組織だ。
 その手には自分たちとは違う剣では無い、二丁の大型経口の拳銃が握られている。
 飛び出した散弾は殺傷能力も申し分ない、その通りニファの顔は吹っ飛ばされその姿はもう原型が無い。
 周囲を見渡し生き残ったのが自分だけだと知る。全員自分達が使う対巨人用の武器ではなく明らかに人間を殺すための装置を装備していた。一体いつの間にそんな装備が出来ていたと言うのだ……その集団は明らかに調査兵団で立体機動装置を操る事に長けた自分達を追い詰める為の……。
 単身剣を取り出すリヴァイ、巨人との戦いで消耗した刃を新しい刃に交換すべくその刃を射出する勢いを利用した持ち前の技術を用いて腕を振り上げこちらに向かって銃を構えたケニーに向かって勢いよくその腕力の力で放ったー。
空を裂く音を立てケニーに向かっていく刃。
 迷いは無かった、突然目の前に現れた男だとしても、例え、幼き頃死にかけていた自分に生きる術を教えてくれた「師」だとしてもこの男は、自身の部下をそして、ウミのに命を奪った。

「バキューン!!!」

 しかし、向こうもその動きを読んでいたのかリヴァイがありったけの力でぶん投げた刃を特殊な技術で作られたその銃身でガキィン!と弾き飛ばし散弾を打ちこんできた。

「くッ!!!!」

 すぐさま装備していた雨具を翻して放たれた弾丸を避けたリヴァイだっだが、その傍らで頭を打ちぬかれ物言わぬ遺体と化したニファ、そして散弾に弾き飛ばされもろにその肢体を煙突に背中からぶつけてもろに弾き飛ばされ屋根から転落したウミに目を見やり、悔し気に歯を食いしばるように噛み締め、急ぎ屋根の上を走るとそのまま滑走して煉瓦を蹴り馬車の方向へとアンカーを放つと、断腸の思いでその場を立ち去るのだった。

「チッ、ちょこまかちょこまかネズミみてぇによ。やっぱり逃げたか……そうこねぇとな……」

 ケニーが追跡を促し、立体機動装置を使い屋根の上から飛んだリヴァイを追いかける。そのリヴァイが追いかけるは棺桶に閉じ込められたエレンとヒストリア。死体に偽装された二人を乗せた霊柩馬車。

「(クソ……ッ……!!! こっちの動きを完全に読んでたって事か……!?)」

 リヴァイの脳裏にウミが見せた涙交じりの、哀愁が入り混じった切なくなるくらいに愛おしいあの微笑みが蘇る。
 噛み締めた唇から赤い血がツウ…と、流れた。訳も分からぬまま誰かに殺される。その結末だけは嫌だ。ならばせめてこの手で――……。
 単身、霊柩馬車を捕捉し、立体機動装置で急ぎ追いかけるリヴァイ。しかし、建物の曲がり角を曲がった瞬間、立体機動で滞空していたリヴァイの目前に待ち伏せしていた3名の対人立体機動部隊が真正面からリヴァイに向かって散弾を撃ち放ってきたのだ。
 とっさの動きでアンカーを後方に射出して突き刺し、その反動を利用した宙返りで鮮やかに避けるリヴァイ。そのまま追跡していた霊柩馬車から離れ、後方転換して逃げる。もし自分じゃなければ狙い撃ちにされ蜂の巣になるところだった。

「(待ち伏せ……!! あの野郎……やりやがったな)」

 ドンドンドン!!!!とリズミカルに散弾が炸裂する中を敢えて攻めの守りで単身突っ込む!
 一旦馬車を追うのを諦めて方向転換して逃げるリヴァイをケニーの手により選抜され秘密裏に結成された対人立制圧部隊は追撃し散弾を放ちリヴァイをどんどん袋小路に追い込む。

「クッ……」

 これでは防戦一方。しかし、攻撃することも出来ぬまま雨のように降り注ぐ散弾にリヴァイさえも反撃の機会を見出すどころの状態ではない。
 砲撃を受け木箱に手をつきアクロバティックに回転しながら散弾をうまくかわすリヴァイはバランスと崩し体勢を立て直せないままもつれるように宙を飛び逃げていた。銃弾の雨を抜け建物に遮られ束の間の静寂――……。
 そして開けた視界にふと映る影を見つけ、見上げればそこに居たのは不敵な笑みを浮かべこちらに向かって二丁の拳銃を構えたケニーだった。

「(ケニー……! よりによって何故奴が憲兵に……!!!)」
――ガウン!ガウン!!

 とっさに近くの荷台で砂煙を立てて滑るようにワイヤーを駆使して反転、方向転換すると再び進行方向を変えフェイントを使いつつリヴァイは反撃の余地さえ出来ないまま、袋小路へ追い詰められていく。
 リヴァイの脳裏に浮かぶのは今にも餓死寸前で母親の死に自らも朽ちていくガリガリにやせ細った自分を見る若かりし頃のケニーの姿。
 建物の壁を蹴り、滑るように飛び散る瓦礫の破片が次々とリヴァイに襲い掛かり、リヴァイの端正な顔、肩を掠め、ビッ!!ちょうど左の額を建物の破片が命中し、そこからブシュッと鮮血が噴き出しリヴァイの視界を奪った。

「体勢を崩したぞ!!」
「撃て!!」
「逃がすな」

 これを好機だと次々と散弾を打ち込まれ追い詰められていくリヴァイ。
 生き残った自分を狙い蜂の巣にする勢いで撃ちまくる鉄の雨を避ける中リヴァイの眼前に割り込むように飛び込んで来たのは。

「ウミ!!」
「リヴァイ!逃げて!!」

 リヴァイと同じように対人制圧部隊に追い詰められて逃げ惑うウミの姿だった。彼女は何とか生きながらえていたのだ、あの時ケニーが放った散弾が被弾する直前に彼女は飛んでいたのだ。そして直撃を免れどうやら助かることが出来た。
 しかし、このままここで戦うのは不利だ。

「っ!」

 地面の上を引きずられながらリヴァイはそのまま逃げ惑うウミを巻き込みながらストヘスサカバと書いてある酒場に向かってアンカーを発射し、ワイヤーが巻き取られる勢いを利用して吸い込まれるように高速回転しながら回転しながらそのまま酒場の開閉扉を木っ端みじんにぶっ壊して突っ込んで来たのだ!!

「ひッ……」

 突如午後の穏やかな空気の漂う店内にダイナミック入店してきた今時の人となっているお尋ね者のリヴァイの姿に呆然とする店主や客たち。

「ひっ、ひいいいい」
「リ……リヴァイだ……調査兵団の……」
「ヒッ! いらっしゃいませ……っ」

 カウンターに着地し、突然の出来事にがくがくと震えて気絶しそうな店主は涙ながらに店主らしくリヴァイにそう言うしかなかった。
 カウンターに叩きつけられ呆然とするウミと、ゆらりとカウンターの上に膝を着くリヴァイ。その額からはおびただしい量の血が流れ視界を血に染めている。

「チッ……」

 なんて様だ。確認するようにべったりと張り付いた傷を負った顔を指先で触れ、二本の指で確認するリヴァイ。ウミはカウンターの影に隠れながら心配そうに自身を見つめている。しかし、今のこの状況でリヴァイも思いつかない。ただ分かるのは、リヴァイは悔し気に眉を寄せるしかなかった。
 よりにもよってなぜあの男が敵勢力の中心人物に…。
 あの男、ケニーが突然自分の前から姿を消したあの日から二十年以上もの月日が流れていると言うのに、あの男は今も現役でその能力は健在という事か、万事休すだ。

「(クソ……このままじゃ部下もエレンもヒストリアも失う……)」

 しかしここにいつまでも立てこもるわけにはいかない、それどころかこれではまるで袋のネズミ。あの男は言っていた、追い詰められても建物の中にだけは逃げるなと。その言葉通りにリヴァイの気配を嗅ぎつけたケニーがゆっくりと酒場に近づいて来る。万事休すだ。

「(せめて……ウミだけでも……)」

・ニファ
・ケイジ
・アーベル
ケニー・アッカーマン率いる中央憲兵・対人制圧部隊の急襲により銃撃を受け死亡。

To be continue…

2020.02.21
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