柔らかな月明かりが射し込む夜、 瞳を閉じる、 (瞼越しに感じる) 鼓動を感じる、 (生の証ー胸の高鳴り) 温もりを感じる、 (俺を包む。) 彼女は、確かに胸の内に綻ぶ様な愛らしい笑みを浮かべて俺に手を振り歩いてくる。 「¨ ¨」 罪に汚れたこの俺にその名を呼ぶ事など許されない事だと知りながら 柔らかな、その笑みに絆され 甘く俺を呼ぶその声に ただ満たされた、 罪の意識さえ、受け入れてくれた しかし、現実は赦さない。 静かに甲冑を外し包帯を緩めれば思い知らされる現実 月夜に照らし出された忌々しい全ての左腕が曝し出された。 赤く淀み黒く爛れた醜い左腕… それが俺の罪。 父親を殺したのは… だからこそこの罪を背負い…絶望に身を委ねよう 忌々しきヴァンパイアとして、 凍り付いた世界を永久に生きる この感情の意味を、俺は知らない。 気付いた時に、 彼女はもう居ない。 ザワザワ、ザワザワ。 暗闇の森・何処かでホウホウと梟が鳴いている音がする。 その中を1人の少女・ウミが静かに枝を踏みしめ狼が飛び出してきそうな茂みに身を震わせ進んでいた。 急いで、急いで。 曲がりくねった道を突き進み早く帰らねば、帰路に立ち何処までも続く果てしない暗い道をただひたすらに歩いていた。 しかし、まるでこの森は意志を持っているかの様にウミごと移動しているかの様なさっきからずっと同じ道の繰り返しの様な気がしてならないのだ。 歩いても歩いても… 一向に街の灯りは見えやしない。 星々さえ輝かない曇り空、 ついには力尽きてウミはその場にしゃがみ込んでしまったのだ。 「っ…いたた、」 馴れない靴に足は悲鳴をあげ、あちこちの至る箇所の潰れた豆からは真っ赤な鮮血がじわじわと流れ出している。 慌ててハンカチでその豆を押さえるも更に歩く度痛みは増してゆくばかりだ。 街灯も無い真の暗闇。 闇に導かれた少女はただうなだれた。 助けを呼ぼうにも術がない、 たった1人・女としての魅力があるのかはわからないがとにかく女が夜道を歩くのは危険極まりない。 血の香りに誘われて…背後に迫る闇すら知らずに少女はふと、何気なく振り返った。 prev |next [読んだよ!|back to top] |