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「21th.secret Dearest-HEROIN-」


何かと思えば吸血鬼狩人の団長「疾風」を連ねる偉人のヴオックス公が私の足下に跪いて…そっと、静かに私の手の甲に口付けを落としたのだ。

「…っ!」
「写真で見るよりも綺麗な瞳をしている。可憐なお嬢さんだ。
その色香で…誰を惑わす?」
「…?」
「てめ…っ…」
「ラルヴ…」
「っ…はい、お嬢様。」

ラルヴは口唇を噛みしめひたすら殴りたい衝動を抑えていた。


「…………………………………………………………アルベル・ノックス…か?」「…!!」

意味深に囁かれた言葉はあまりにも意外なものだった。
どうしてそれを…!?
そう叫びたくなるのをそれが奴の思うツボだとぐっと堪える。

綺麗に整え剃られた髭が手の甲に当たり慌てて身を捩らせれば。
フッと精悍な顔立ちで微笑うヴオックス公と視線がかち合う、確かに、こんなに素敵な大人の男性は周りを見渡しても早々居ないと思う。

でも、それよりも…
耳元で不意に意味深に低く囁かれたアルベルさんの名前にラルヴがどうして警戒心剥き出しの憎悪に満ちた瞳をしたのか…容易く理解することになる。

「っ…!!」

とっさに立ち上がった彼を睨みつける。
何て瞳を…アルベルさんとは全く違う、アルベルさんは弱者をいたぶるのを何よりの快楽にするこの野蛮な男とは違う…!


身を挺して私を助けてくれた、逢えない夢で必ず私に笑顔を見せてくれた…

ヴオックス公…いやヴォックス。
忠誠の甲のキス、私は静かにその大きな手を振り払いその箇所を思い切りスカートで拭った。
触れた箇所が爛れてしまいそう…キッと睨みつければつまらなそうに笑みを浮かべて私を見下す瞳。
何か、毒の様な禍々しい負の情に汚れた瞳をしているその男を…心の底から恐ろしいと感じた。

そして背を向け未だ泣いている子供に駆けよりそっと頭をなでてあげる、未だこんなに小さな子供が怖い思いをしたのに、馬車に弾かれそうになったのに…アルベルさんが助けてくれなかったら私達は生きていない。

「大丈夫…?」
「うっ、うっ…ひっく…」
「よしよし、すごく、怖かったよね。
怖い思いをさせてごめんね。
もう大丈夫だよ、お姉ちゃんが一緒にママを捜してあげるから、ねっ」
「うっ…ぐすっ…ほんと…?」「うん、本当。だからもう泣かないで、ね?」

子供に危ない思いをさせたその馬車にこの男は悠然として乗って居たと言うのに馬車が停まったのではなく無理矢理アルベルさんが停車させてくれた事実すら気付かぬ儘…それを許してしまえる様な人間に私はなりたくない。

ヴォックスの様な人間には……アルベルさんのあの表情、出会った時よりも、何よりも恐ろしく感じられた。





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