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「12th.secret Dearest-HEROIN-」


あの瞬間からきっと、私は漆黒の風に乗り姿を見せた彼に心を奪われた。
昔にもそんな経験をしたような、赤い双眼に射られ、トクン、甘く胸が疼く、そんな…気持ち。
一気に心臓を鷲掴まれ男らしさ溢れる妖艶な彼の姿にただ魅入られいつまでもその目を、反らせなかった…
いつまでも頭からアルベルさんが離れないの。
知り合ったばかりなのに、どうしてかな…貴方の言葉ひとつひとつが、

「夜は吸血鬼がうじゃうじゃ居る、確かに屋敷暮らしばかりでは退屈でしょうから今回だけは見逃します。」
「ラルヴ…」
「はぁ、もう直に夜が明ける、お嬢様は体調不良だと私から主に伝えておきます。今は此処でお休み。」

優しい声に囁かれて。
ラルヴはそっと私に真新しいふわりとした柔らかなネグリジェを渡した。
背中を向けた彼にそっと自分も素肌を隠したアルベルさんのマントを畳んで置き着替えれば慣れない靴に足の傷は未だ痛む。
アルベルさんに逢いたいのに…この足じゃ当分無理そうで。
溜息をつきそっと冷たいベッドに潜り込むとラルヴが顔を覗かせた。

「それと、
黙っておきますよ、」
「え…?」
「貴方がヴァンパイアと接触した事は、な?」

「…―!!」

ど、どうしてそれを彼が知っているの!?
しかし、それこそラルヴの思う壷に決まっている。
もし、カマを掛けているのだとしたら…
問いただしたい言葉を飲み込み口を噤み必死に動揺を悟られてしまわないように…
そうしてラルヴが私に釘を刺してから口にしたのは全く知らない言葉だった。

「俺とウミの秘密だからな…。
俺は吸血鬼と人間の間に生まれた混血児(ダンピール)です。
貴方に出会う前は俺の生業はハンターでしたから吸血鬼の匂いには敏感なんです。」

「ラルヴ…急に…どうしてそんな大事な話まで!」

「貴方は俺を救ってくれたから命の恩人ですから、それに貴方からは俺を半殺しにしたあの歪(いが)みの吸血鬼の香りがした…。」
「歪みの…それって…もしかして!」

不意に聞こえたのは私が今、何よりも求めていたあの人の異名だった。
歪みのアルベル…?

「…アルベル・ノックス。通称歪みのアルベル…奴は貴族の中でも取り分け傲慢でしてね。
破壊と殺戮のプロフェッショナルですよ、しかしカタナを使わせたらあいつはまさに鬼です、俺も真正面からタイマンでやりあって重傷を負わされました。
そいつがまさか貴方に手すら出さずに逃がすなんて…変わった奴だ、まさか双子か?」

普段とは違う、嘲笑を浮かべ馬鹿にした様なラルヴの態度が許せなくて私はついつい声を張り上げてしまっていた。

「ラルヴ!!
撤回して…っ。アルベルさんは私の命の恩人よ!そんな風に言わないで…」

「…お嬢様、まさか…」

「あの人は、弱い物イジメはしない主義だから、平気だよ。血も吸われてないしそれならあの人よりも吸血鬼狩人の人たちの方が…」
「しかし、自覚しておりますでしょうが吸血鬼と人間が情など通い合わせることなど禁忌ですからね、」

そんな事言われなくたってちゃんと分かってる。
アルベルさんは人間じゃない、私みたいなぽっちゃりも軽々と片腕で持ち上げてしまう怪力を持ち、そして私の軽い傷口の血を当たり前に貪るヴァンパイア。だと言う事も。
でも、でも、理性が分かっていてもそれでもアルベルさんの事が頭から離れなくて…そして蘇る過去の記憶。
これ以上は思い知らされたくなくて聞きたくなくて…布団にくるまればラルヴも言い過ぎたとばつが悪そうに私から顔を背けた。





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