SHORT | ナノ



「marriageU」
SHORTSTORY

神の眼を巡る戦乱から4年の月日が流れた6月のある夕方の話。

「ただいま、帰ったよ、」
「お帰りなさい、マグナス将軍様。」
「あぁ、」
「上着をお預かりいたします。」
「頼む」

迎えてくれたのは結婚したマリアンの跡を継いで僕の身の回りの世話係と言う名の恋人でありメイドに転職した海。
ー今では僕の、大切な人であり、僕のわがままで彼女とこの小さな屋敷で暮らしている。あのヒューゴの屋敷は身寄りを無くした者達に寄付したからだ。さらりと笑みを浮かべれば海は真っ赤な顔で頷き、手を伸ばす。それを合図に勲章のぶら下がった上着を脱いで海に手渡す。

あれから4年、
スタンはルーティと結婚してやがてスタンにそっくりなカイルが生まれた。
そして、僕は

「マグナス将軍、背、また伸びたのではないですか?」
「!そうか、?」

鏡でよく見てもあまり実感がわかない。確かに、あれからもう4年。背は彼女より元から高かったが今ではもう頭ふたつ分くらい背が離れてしまったのが少し寂しくも思う。

「マグナス将軍かぁ*エミリオもすっかり偉くなっちゃって。寂しい、」

2人きりの時間の最中。海がため息混じりにそう寂しげに呟いた。

「褒めてくれないのか?」

神の眼の任務成功を労って若くして七将軍の一人に選ばれたのは自分の長年の夢である。
今は亡き父親と和解できた時も、海も泣きながらとても喜んでくれた。しかし、今はマグナス将軍と呼ばれ、町の期待を背負う僕に対してあまり良くは思っていない。

「だって・・・これ。また来たのよ、世界中が皆貴方に注目しているわ」

そう言って海が僕のデスクの片隅に乱雑に置かれた"それ"に手を伸ばした。

"それ"ー…海の不機嫌な理由。

「ああ、見合い話か。」
「ああ、じゃないわ!」

成人した僕に対してのあてつけなのか、最近は次から次へと名家の貴族やらとにかく位の高い女性との見合い話が持ち出されていた。しかし、どうせ僕の財産が目当てなのだろう。ああ、馬鹿馬鹿しい。
大きなお世話だが、婚約者ならもう決めている。そう、ただ1人の。

「おい、何故泣くんだ」

ふと、並べられた写真を見た海がポロポロ涙をこぼして泣き始めてしまったのだ。

「だ、だって…み、皆、私より若いし、すごい美人なんだもん…。」

そう言って泣き出した海。美人、ああ、確かにどれも選りすぐりの美人。しかし、ただそれだけ。美人でも僕には何の魅力も感じない。

「全く、仕方のない奴だな。」

そのまま背を向けてしまった海を優しく背後から包み込むように抱きしめて耳たぶにそっとキスをする。

「安心しろ、誰よりもおまえを愛しているのに。誰が見合いなどするか。」
「エッ、エエエミリオ!?」
「愛してるよ、海。」

耳元で囁くようにさらりと愛の言葉を告げれば、パニック状態な海の顔は可哀想な位に赤く、そんな彼女の涙を優しく拭ってやった。

「だから、しっかり報告しないとな。」

そのまま彼女の小さな左手を取り、口づけを落としてやる。

試しにやってみたが、この行為は気障な紳士でもない僕にはやはり恥ずかしいな。
しかし、今の気持ちを薄っぺらい言葉なんかで伝えきれないから。今まで渡しそびれていたそれをポケットから取り出して薬指に填めその瞳を見つめる。

「エミリオ」

僕の左手にも同じ。

「海、僕と結婚して下さい。」

海の涙は拭っても拭いきれずに止めどなく溢れてくる。傷つけたお前に今告げよう。

「一生涯貴方を守ると、誓います。」

返事はー

「は、い。エミリオ・・・っ私を幸せに、して下さい。」
「yes my lady.」

6月の花嫁は誰よりも幸せになれるから…
だから、僕がお前を世界で一番幸せな花嫁にしてやるから。

だから、歩いていこう
2人、いつまでも、
困難を乗り越えてやっと結ばれた絆だから、この先、決して切れはしない。

「もう、離しはしないさ、」
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