▽ 1
上司であり戸籍上祖父になったガープから手配書を受け取る。ニヒルな笑みを浮かべている悪人面の彼は、当たり前だけど最後に見たときよりも随分と成長している
手配書には僕の捨てた名が乗っていた。海軍に入隊を決めたその日から僕はその名を、その名が背負っている業もすべて彼に押しつけてしまった。あまりにも浅はかな考えで、僕は唯一の半身に全てを押しつけ逃げ出してしまった
勘当されるのも当たり前か。自嘲気味に笑い、僕は貰った手配書を古びた缶の玩具にしまう。使い古されたそれは錆び付いてて開けるのも一苦労だ
「……あ、落ちちゃった」
開けた拍子にひらひらと舞い落ちた手配書は祖父の本当の孫、モンキー・D・ルフィのものだった。
__エースの、本当の弟
戸籍上であれば僕の弟にもなるけど、彼には随分と嫌われたなぁ。彼のも拾い、全て缶に入れ蓋をする
古びた缶に視線を落とす。錆び付いて色褪せてはいるけれど、その絵柄ははっきりと分かる。
二人の少年が手をつないでるこの缶の絵柄が大好きだ。いつか、僕もこんな風になれるのかなって思ってた時期もあった。これを渡してくれたってことは、エースも僕といつかは仲良くなってくれることを夢見てるのかなって
缶に落ちた水滴を拭い取り、デスクの引き出しの中に入れ鍵を掛ける。
きっと、僕はこの部屋に戻ることはもうない
鍵をベットの中央に放り投げ、僕は正義を背負って部屋を出た
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「助けに来たぞ!」
「世話掛けちまってすまねェな!!」
___「「エース!!」」
エースの公開処刑は元帥の予想を遙かに上回る大戦争になった。インペルダウンに潜り込んだルフィがあのクロコダイルやイワンコフと共に脱獄し、ここまでたどり着いたのだ。
エースの隣に座っているガープは苦々しい顔をしているが、その中に微かな期待も見れる。もしかしたら、みんなが逃げてくれるかも、と
__しかし、元帥は残酷にも言ってしまった。彼が、彼の親が何者なのかを
まるでエースだけが海賊王の息子だとでもいうような元帥の言い方。調べればすぐにでも分かるだろうに。どうやら海軍は海賊王の倅を一人として公表するらしい
「あ、お前……ッ!?」
少し前にガープと一緒に会った僕の顔を覚えていたのか、彼の進む道の先で海賊を蹴散らしている僕に驚いていた。初めて会った時もへなちょことか言われたから、戦えないと思ってたんだろうなぁ
「僕が任されたのは君を援護する海賊を減らすこと。」
「は、ぁ……?」
「この先にはガープ中将が待ってる。倒せないなら彼は助けられないよ」
暗に君に手を出すつもりはないと言えば、共にいた海峡のジンベエが察してくれ僕の横を通り過ぎる。
元帥やサカズキさんには怒られてしまったが、それでいい。彼を助けてくれるなら、本当の兄弟が良いに決まってる
血縁者であるガープに一発入れたルフィは、見事エースの奪還に成功した。あとは逃げてくれればいいが、後ろで熱く怒り狂っているあの人はそれを許さないだろう
僕は正義を脱ぎ捨て、気配を殺し彼らの元へ急ぐ。この距離ならギリギリだが間に合う。
迫り来る拳になりふり構わず庇おうとするエースに思わず笑みがこぼれた。
あぁ、その子が君の本当の弟なんだね。慌てる白ひげの幹部たち、君を助け出そうと先陣切って走り出した海賊たち。エースは本当の家族を、見つけられたんだね
___それなら、ちゃんと帰らないとダメだよ
ルフィを庇い背を向けているエースを突き飛ばすようにして押し、僕が代わりにその拳を受ける
兄弟が二人出来たこと、海賊になったこと、白ひげに入ったこと、全部知ってた。ガープが山から帰ってくるたびに話を聞いていたから
ずっと手配書や新聞で君の安否を確認しては安心した。たまに新聞に写っている楽しそうなエースが大好きだった
「アラン……!?」
「何故じゃ、何故ソイツを庇う…アラン!!」
ドクドクと腹から血が溢れ出てるのに不思議と痛くない。
信じられないとでも言うような顔をしてるエース。そこで何年振りかに目が合った。最後に顔を合わせたのはいつだっけなぁ
僕が庇った事で辺りの状況が一変した。ジンベエは満身創痍なルフィと未だ唖然としてるエースを抱えて船へ戻っていく。
そう、それでいいんだよ。だから僕のことを心配そうに見てないで無事にエースたちを送り届けてね
___どんなに周りが僕たちを似てないと言おうが、どんなに君が僕を嫌ってもね、
「それでも、ぼくは、エースの弟なんだ」
僕も最悪の血を引いている息子なんだ
僕には何もないから、好きなものがいっぱいできた君の代わりに僕がこの業を背負うよ。今まで押しつけてた分、僕がここで交代するよ
だって、僕はエースのいない世界での息の仕方がわからないから。
僕に向かって手を伸ばすエースに別れの笑みを向ける。ばいばいエース。僕の、唯一の家族
もし、生まれ変わったら、今度は君とずっと一緒にいたいな
「なら、お前もその業を背負え」
元上司である彼の言葉を最後に、僕の視界は暗転した。__
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