イソフラボンは通常の三倍柔らかい
なけなしの百円玉を握った吾郎くん
吾郎くんの左手に付いた小さな円の意図を問う文字の配列
そのとき 神様はいなかった
自動筆記に勝つことの出来なかった人類によって教科書に載る文章の大半は人工知能が書くことになったので作者の意図を問う問題は消えてしまったんだよ吾郎くん
ねえ
吾郎くんはどうして百円玉を握り締めていたんですか
消費税が上がったので
吾郎くんはいつも買っていた99円のお菓子を買えなくなってしまった
柔らかい
吾郎くんの手のひらに刻まれたのは何円だったのでしょうか
見立てる狐の絵描き歌
電車が
一瞬
思ってたんと違う揺らぎをするから
目の前で
ひっくり返った女子高生の
右脚
をかじっているぼくは
吾郎くんではないのだけれど
左手には確かに小さな円があったから
ぼくと吾郎くんはお友達になれるかもしれないですね
柔らかい
柔らかいのはイソフラボンでは?
神様が定めた通りの順番で
リスリス子リス
鉄砲撃ってバンバンバン
ぼくたちがどちらにしようか選ぶたびに子リスが死んでしまう
雨が降る
そこに意図はない
では
どうして吾郎くんは百円玉を握り締めていなければならなかったんですか
ねえ
小さな円では金魚も掬えないね
縁日に相応しくない霧雨の中
ぼくたちはお互いどこか遠慮していた
吾郎くんの握り締めたままの左手の中にほんとうは何が入っているかぼくはとっくにわかっていたんだけど
ぼくの左手にあるのはどうしても小さな円だったから
ぼくと吾郎くんはほんとうは決してお友達になれなかったのかもしれないね
天神さまの細道を
二人だけで
手を繋ぐこともできないまま
踏切の音が聞こえる
鳥居と同じ色の円が点滅している
カン、カン、
どちらにしようかな天の神様の言う通り
ぼくたちの手の中にあるものが交代で順番に
少しずつ踏み外されていくんだ
右足
宙に浮いたそれがもう一度地面に着くまでの間
リスリス子リス
ぼくに向けて開かれている吾郎くんの手のひら
鉄砲撃ってバンバンバン
吾郎くんに向けられたぼくの手のひら
子リスは
小さな円と円の間を泳ぎ回る紅色の金魚
子リスは
糸のように絡み付く雨
子リスは
ねえ
さっきから尋ねてくる
きみは だれ
緑のフェンスに捕まって
空を飛ぶことのできない鶏が
一日に躓く回数の平均を
ぼくたちの左手で割ると
そこからいくつもの屋根が生まれる
赤い羽根
脂ののった
脚はイソフラボンに近いのかもしれない





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