これの設定やや引きずり気味
*及川さんは仕事休みと思って頂ければ←







『ポークカレーが食べたいです』



今日の晩飯と明日の朝飯の材料を買うためにスーパーに来ていたらポケットで携帯がブブブと鳴って飛雄からメールが来た。酷く素っ気なくて、さり気なく今日のメニューをリクエストしている文面。絵文字も顔文字もついていないシンプルなそれを見て、飛雄らしいと思った。温泉卵を2つのせてあげよう、そう打ってから顔文字を探して、やめる。飛雄の真似をして簡素なメールを返した。
それから3分後くらいにまた携帯が鳴る。


『及川さんですよね?』




「…なにこれ」

さすがによくわからなくて、俺以外に誰がいるの、打って返す。返信はすぐに来た。



『いつもみたいにメールが賑やかじゃないから、違う人かと思いました』




メールが、賑やかじゃないから。それはもちろん顔文字や絵文字のことを言っているんだろうけど、賑やかって。本当に直感で感想を言う素直な子供だと思った。飛雄がカレーに温泉卵のせたの好きって知ってる人、そんなに居ないと思うけど。送信ボタンを押そうとしたら、携帯が違うリズムでバイブを鳴らした。電話だ。


「もしもし、」

『あ、いつもの及川さんだ』


よかった、電話の向こうで呟く声が聞こえる。たった何通かのメールの送受信で、飛雄の言う賑やかじゃない俺のメールがどれだけ彼の不安を煽ったんだろう。


「そんなに不自然だった?顔文字ないの」

『不自然っつーか、なんか怒ってる?みたいな感じでした』

「俺じゃないんじゃないかと思うほどに?」

『や、えーと…機嫌悪いときに晩飯のリクエストとかして、余計怒らせたかなとか、思って』



飛雄は如何にもしどろもどろという感じで説明をした。ひょっとしたらまだ俺が怒ってると勘違いしてるのかもしれない。


「俺が意味もなく飛雄に当たるわけないでしょー」

『そうですか?』

「ちょ、なんで疑問系なの」

『いやあ深い意味はないですけど』

「俺、飛雄の真似しただけなんだけどなあ」

『俺の?』

「用件だけのめーっちゃくちゃシンプルなメール」

『…あー』



きまり悪そうに呟いてから、すみませんと謝られる。だから別に怒ってるわけじゃないんだけどなあ。そんな要素一個もないし。


「まあいいよ、そんなんさ。カレー食べたいんでしょ」

『、はい』

「とびっきり美味しいの作ったげるから、部活終わったらすぐ帰っておいで」

『…楽しみにしてます』


少し嬉しそうな、弾んだ声。やっぱり素直な子供だと思う。じゃあ切るよ、そう言って電源を押そうとした、数秒間。


『俺、及川さんの賑やかなメール好きです、及川さんらしくて』


不意打ちみたいに小さな告白を呟かれて、電話が切れる。携帯越しに聞こえた飛雄の声が本来の彼の声でないことが酷く惜しまれた。


「そういうことは正面から言おうよ…」


きっと赤い顔をしてるんだろう。
素直で、照れ屋で、少し頭の悪い、たまらなく愛しい子。
そんな彼を思い浮かべ口元を綻ばせながら、カレーの材料を買うべく再び買い物を再開した。


虚像スウィング
(はやくはやく、あの子に会いたい)