9話

プルルル…



学校の休み時間。
ケータイが鳴った。


「もしもし」


















"あ、先輩?俺。"

「あぁ、財前君?どうした?」


"朝から喉が痛いんッスわ。先輩、前のど飴持ってましたよね?ください"


「うん、わかった。風邪?」


"どうやろ?けど、テニス部ちょっときてるんですよ"


マネを辞めた今テニス部の状況は何もわからない。
そのことに少し寂しさを覚えた。


「…そうなんだ。いつ渡せばいい?」

「"今」"

「え?」





後ろからケータイより少し早く聞こえた財前君の声。


「電話しながらきちゃいました」


電話を切りながらそう言う財前君。


「私があげなかったらどうするつもりだったの?」

「先輩に会いに来たって言って来ました。まあ、先輩なら必ずくれるってわかってましたけどね。」

「ハハッ…そうやって誰にでも言うんでしょ」

「やから、先輩だけやって。」


はい、とのど飴を財前君に渡す。


そういえば蔵は大丈夫かな?
去年も喉いためてたし。
健康オタクなくせしてそうゆうとこ抜けてるんだよね。





あ、
もう関係ないんだ。










早く忘れなきゃ。



頭の中の思い出を黒いクレヨンで塗り潰して、
思い出が見えなくなるまで塗り潰して、



できることならそうしたい。








忘れようとしても浮き出る貴方。






「……なんで…………、」

「え…?」

「…なんでそんな顔するん?」

「…そんな顔って…、」

「俺やったら先輩にそんな顔させへんのに」




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