2話
「麻奈ちゃん顔色悪いよ?大丈夫?」
クラスメートのそんな声ではっ、とする。 そんな顔をしているだろうか?
「うん、大丈夫だよ」 「そっか。あ、今日の調理実習何作るんだっけ?」 「たしか……マフィン?」
「それ俺にくれますよね?」
そして、突如聞こえた低い声。 私はこの声を知ってる。
「財前君、」 「俺マフィン好きなんすわ」 「初耳」 「ってか、先輩の作るもんならなんでも好き」 「ははっ、ありがとう」
1つ後輩の財前君。 テニス部員でもある彼は私の良き理解者でもある。 さっきまで話してたクラスメートもいつの間にかどこかへ行ってしまった。
「ということで、待ってますから…………あ、彼氏にもあげるんスか?」 「蔵は………いらない…かな」 「え?」 「…ううん。何にもない。じゃあ財前君のために気合いれて作ってくる」 「………期待してますわ」
きっと蔵はいらない。 蔵が欲しいのは好きな子からのプレゼントだから。
「麻奈今日調理実習なんやろ?待っとるからな」 「え?何を」 「麻奈が作ったお菓子に決まっとるやろ。俺好きな子以外からはもらわん主義やから」
そう言って笑ってた蔵を思いだす。
私のいけないところだ。 過去に浸ってしまう。
でも、頭には美しい思い出しか浮かばないから。 それだから思い出は素敵だと思う。
ふと目線をそらすとミルクティー色の髪が目に入った。
蔵だ。
思い出がどれだけ素晴らしくても、 今は、貴方を見てるだけでこんなにも辛いの。
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