1話

「白石くん、昨日女の子と手繋いで歩いてたらしいよ」



目の前にはさっきまで人がいたのを主張するような少しだけ中身の入ったマグカップ。
そこに薄ら残るリップの痕。





「……蔵。やっぱり今日は帰るね………」
「おん」



私には目も向けず別れの挨拶をする彼氏。

この光景は最近慣れてきた。
当たり前になる、って怖い。

どうしてこうなってしまったんだろう。




彼にはきっと好きな子がいる。
私なんかよりもずっと。


それは彼の表情、しぐさ、…そしてこのマグカップでわかる。






「明日空いてる?」

「おん、空いとるで」

「どっかお出かけいこ」

「ええよ」











「ごめんな、やっぱ無理やった」














「白石くん、昨日女の子と手繋いで歩いてたらしいよ」








































なんで私を振らないんだろう?
早く、別れを告げてよ。
好きな子がいるんだったら、私なんてもういらないでしょう?

私を苦しませたいのかな?



お願いだから振って欲しい。



私は蔵が好きだから。








中3の頃付き合い始めた私達。
マネージャーをやっていたこともあってもともと仲がよかった。
付き合って、みんなに祝ってもらって、そこからずっと幸せで…


「好きやなぁ。麻奈のこと」


でも、
思い出すのも辛い台詞。




「ずっと離さへんから」




離していいよ。
こんな約束みたいなこと守らなくていい。



だから早く私をこの苦しみから解放して。



胸が苦しくて苦しくて壊れそう。




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