accordance | ナノ

完璧を求めるのは


今日もまた部活後のテニスコートに音が響く。
テニスコートに映る影はやはり彼の姿。

「支えてくれる人がいる人は強くなれるんやと思う。」

この前はそのまま立ち去ってしまった。
ううん、立ち去ることしか出来なかった。

だから、今日は…


「――白石君っ!」
「!、…みょうじさん、」
「こんな時間まで練習してるんだね…。」
「自主トレや、自主トレ。」
「…完璧なテニスのため?」


縛ってきたのは完璧なテニス。


「…ハハッ、せやなぁ。」


ボールを二回程コートにつき、ラケットを構える。

空中に浮かんだテニスボールをラケットがきれいに捕らえた。


「…あかんやろ?」
「…………。」


「…全然完璧やないやろ?」


悔しそうに白石君は下唇を噛む。

一歩、一歩でいい。
彼に近付きたい。


白石君に近付き、あたしは白石君の服の裾を掴んだ。


「…みょうじさん?」
「……完璧を求めるのは…責任?」


裾を握る力を強める。


「…なんで、白石君は完璧を目指すの……?」


聞いてしまったこと。
けれど、後悔はしていない。


「………責任…か……、」


白石君は悲しそうにフッと笑う。


「……ちゃう……。確かに責任とかもあるかもしれへん。……せやけど――」


白石君は少し下を向く。


「自分のテニスって何やったかなって…。……もう俺は縛られるテニスしか出来なくなってしまったんやないかって…。」










































「…縛られるテニスしか出来ない?」


下を向いた白石君の顔はもちろん見えない。
けど、なんとなく想像がついてしまう。


「みんなのために勝利のために、…完璧なテニスで一勝をもぎ取らなあかん…。それ思っとったらな、俺のテニスって何やったかなって最近思うんや…。」



一年前の全国大会。
今の白石君。

変わったものをどう、と指摘できるあたしではない。



「…今の自分を……、自分のテニスとは思えないの?」
「…今の俺を?」
「…完璧なテニスじゃなくて。基本に忠実なテニスが白石君のテニスなんだよ。ただ、そのテニスを極めたら完璧になるってだけで、完璧を目指してるわけじゃない。ただ、極めたいだけ。…完璧が悪いってわけじゃなくて、いや、逆にいいんだけど…」



頭がこんがらがってきた。
あたし今すごいあたふたしてると思う。


そんなあたしを見てか白石君は笑った。



「…ありがとうな。みょうじさん。」



少し白石君の心が見えた気がした。
そしてそれと同時に心の中の何かが変化するのに気づく。


--------

「基本に忠実なテニス…か……、」

----------

ぽつりと話す彼の姿




prev next
×