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「…なんでお前はここにいるんだ」
「……」
「…無視かコラ」
「ふはっ、瀬尾が答え返すわけないでしょ。なんて言ったって超無口な愉快犯だもん」
場所は屋上。親衛隊があまりにもうるさいから千里くんのテリトリーに逃げてきたらついてきた橘。おかげで全くもって喋れなくなった。
「はあ?誰が無口だって?怒鳴り返してきたぞ」
「はあ!?こいつがそんなことするわけねえだろ、最早声聞けるなんてレア中のレアだろ」
そしてこいつら初対面のくせになんだこんな普通に会話してんだ。橘の頭は良くわからん、一応千里君校内一の不良だからな?
「おい瀬尾どういうことだよ!?」
他人事を決め込んで熾芳が今朝届けてくれたお弁当を食べていたら巻き込まれた。うるさいな、弁当の邪魔するな。
「つーかお前瀬尾って言うのか?りーとか名乗りやがって」
「まじで!?瀬尾瑞紀のどこにりがあるんだよ!」
うるせえ本名だ馬鹿野郎。俺がそんな面倒な嘘つくわけねえだろ。
俺の携帯が震えたのはそんな時だ。うるさい外野を無視してメールを開けば熾芳からだ。卵焼き、あんまり甘くないかも?
試しに食べてみれば確かにいつもよりは甘くない。けれど別に食べれない訳では無いので気にもしない。
「おい瀬尾、聞いてるかー?」
聞いてねえよ、アホ。
「なあー、喋れるなら喋ろうぜー?シャイなの?恥ずかしがり屋さん??かっわいいなあー!」
あ、ダメだうぜえ。
すぐに返信メールで平気という旨とそれからうるさい橘に反論したいが為に声を出していいか聞けばすぐに返ってくる返信。
橘なら別に問題ないんじゃね?なんだっけ?千里?にはバレてんだろ?
お前がそういうならもう我慢しなくていいよな?ちなみに千里くんにバレたのは声だけで事情は知らないと思う。
「なーあ、瀬尾ぉ!!!」
「うるせえよいい加減黙れ」
「喋ったあああああああ!!!!!」
叫び出した橘を座ったまま蹴り飛ばしながら千里くんの弁当に目を向ける。
「エビフライよこせ、かわりにトマトやるから」
「それよりもお前この間のりーはなんだ」
特に文句は言われなかったのでトマトを渡してエビフライもらったら呆れた顔をされた。なんだよ。
「嘘ついてねえよ?本名だし」
「り、ないだろ」
「あるけど?」
「…瀬尾瑞紀」
「秋澄莉芳」
「「はあ?」」
何言ってんだお前、という目で見られて仕方なく長い前髪をかきあげる。
「…会長様だ」
「ハッ、アホ面」
嘲笑してからすぐにその前髪を下ろして弁当に戻る。
「…え?ちょっと待って、意味が分からない。会長様?え、瀬尾は?」
「今会長やってんのは熾芳。俺じゃない」
「熾芳様は留学中じゃ…?」
「ハッタリに決まってんだろ。動きやすくするための口実だ」