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「俺達が可愛いのはいつもなの!そんなことより、いい加減名前くらい呼んでよ!!」
そんな中そう言い放ったニアに、男はきょとんとしてからやがてその顔に心底困惑を浮かべる。
「…ソラ兄、名前、呼んで」
何も答えなかった男にさらに言い募ったのは幼いながら真剣な表情のメアだ。
「………」
しばしの沈黙が、その場を占める。
「お前達は、こんな俺のことを兄と呼んでくれるのか…」
吐き出された言葉は酷く弱々しく、後悔と、困惑が過分に含まれたものになっていた。幼い双子に何も偽らずに会ったのはこれが初めてだ。自分の確かに血の繋がった弟妹だというのに。合わせる顔がなくて、影で支えることが出来ればそれだけでいいと思っていたのに。
「…参ったなぁ」
どうやら可愛い弟妹たちはそれを許してはくれないらしい。こんなにも愚かな俺をまだ兄と呼んでくれるのなら、やるべき事はもう一つしかないだろう?
「ニア、メア…ただいま」
「「おかえり、お兄ちゃん」」
ふわりと同時に笑った双子は優しい言葉を紡いでくれる。それは、今はいないもう1人の弟に酷似していて、だからこそ罪悪感が芽生えたのは致し方ない。
ずっと見てきたのだ。陰に隠れ、第二王家の二人に手を貸してもらいながら大事な弟妹が生きていけるように手回しをしてきた。住処も食料も、必要なものは全部援助してきたし、ヴィラの仕事場所の提供もした。だからこそ、あの子がどんな思いでこの二人を育てたか知っている。
「お前達は随分ヴィラに似たね。子は親に似るとは言ったもんだね」
「何言ってるのお兄ちゃん。ヴィラ兄がお兄ちゃんに似てるんだから当然でしょう?」
それは予想もしていない言葉だった。大事な弟が俺に似ているというのだろうか?こんな、出来損ないの兄に。
「ヴィラ兄は優し過ぎる。俺達のことすぐに甘やかすしお願いごと叶えてくれる。ずっとお兄ちゃんはソラ兄に教わったこと、俺達に教えてくれてた」
歪みながら育ったヴィラは、それでも確かに幼少期にソラから教わったことをすべて双子に伝えたのだ。自分と同じような歪な世界を見せないために。