▼ 1
「…ッ、ぐぅ、ぁ」
突然体に痛みが走り為すすべもなく呻く。驚きに開いた瞳に映ったのは暗い部屋。どこかの倉庫のような、物置のような、どちらかといえば狭く窓なんてものはない。
「やっと起きたの?ほんと、学習しねえよな」
頭上から落ちてきた冷たい声にようやく頭が動き出す。逃げなければ。ここから、早く出ていかないと。
「…無視か?いい度胸してるなァ、クソガキが」
「ひぐっ、ぅ、」
容赦なく腹を蹴飛ばされ元々壁に寄りかかって座っていた体に重い衝撃が走った。同時に頭の上で鳴り響く耳障りな金属音に舌打ちしたくなる。
頭上にある拘束具で両手首を拘束され、更に同じようにして腕よりはまだ長い鎖に足首を捕らえられては逃げることなどできない。それがこの男たちの目的だなんて分かりきってはいたけれど。
「おら、今日もやるぞ。感謝しろよ、俺らの王サマ」
「ていうか、俺的にはこんなガキの方が身分高いとかありえないんだけど」
「それ僻み。まあ、同感だけどね。俺、こういうクソガキ大ッ嫌い」
「あぐぅ、っ、げほっ」
何度目かの蹴りを守る事も避けることもできず腹部にくらう。流石に強過ぎる力に何も入ってはいない胃の中から胃液が出てきそうになって慌ててそれを堪えた。
「つかさ、今何歳だっけお前?」
「……」
「さっさと答えろよ」
ゴッと鈍い音を立てながら頭を殴られ、グラグラと揺れた視界を無視しながら俺は小さく息を吐いた。
「てめえらの遊びにつきやってやってる俺の身にもなれや、クズが。まだ10にもなってねえ子供いたぶるのは楽しいか?オッサン」
「なんだと!!!」
「殺してやろうかこのクソガキが!!」
いつもと変わらない罵詈雑言と体中に走る痛みに何度も気を失いそうになる。それを堪えては身を固くする俺に男たちは気付いているのだろう。だからこそこうやって楽しむのだ、この下劣な男たちは。
「…あきたわ。もういいから実験しようぜ」
「あーそうだな!」
「の前にさ、俺いいもの持ってきたんだよねー」
そう言って一人の男が取り出したのは瓶だ。透明な液体の入るそれをじっと見ていれば男はニヤリと笑う。
「気になるの?別にいいよ、今から体感させてあげるから」
「いらねぇよ、死ねよ」
「あ?めちゃくちゃ使ってください?しょうがねえな…飲め」
ずいっと目の前に差し出された小瓶を黙って睨みつけていれば、男はにやりと笑うと無理やりそれを口に含ませた。
「っ?!ぅあぁぁぁあ!!、....ぐっ、っ、」
唇に駅が触れた途端火傷するような痛みが走りそれが口腔に流れ込んだ途端声なんて出なくなっていた。ただ痛くて鎖を鳴らしながら暴れる俺を二人がかりで押さえつけながら、男はなおも液体を飲ませる。
「ッ....っ、」
開放されると同時に噎せ込み、口から吐き出されたのは大量の血液だった。咳をする度に喉も口腔も腹も、上半身のほぼ全体に神経をぐちゃぐちゃに掻き回される痛みが走る。
「うまかっただろ?」
そんなわけない、これは飲んではいけないものだ。そう言いたくても激痛に言葉も話すことなんてできない。
「これな、硫酸」
「うわ、まじかよ。こいつ死なね?」
「馬鹿いうなよ王さまだぜ?そう簡単には死なねえよ。しかもこれ作ったのコイツの兄貴」
「弟にこの仕打ちか…えげつねえな」
頭上に交わされる会話にどうしようもない怒りを覚える。それでも俺はただ鎖につながれて蹲り血を吐くことしかできない。
兄ちゃんはそんなことしない。絶対にしない。そう信じたいのに、俺を見る目がたまに憎しみに染まっていたのを知っている。だから断言することもできなくて。
「さてと、まだ残ってるし…今度は足にしようか?」
「もうお前さすがだわ、コイツ二度と歩けなくなるぞ」
「一生そこで玩具になってろ」
そう言って近づく男たちをただ睨みつける。これは、二度と話せないかもしれない。硫酸なんてそんなもの、本当に死んでしまう。いくら俺が王であっても死ぬに決まってる。
未だ痛みに動くことのできない俺を嘲笑いながら男は足に手を伸ばす。
「ッ、」
逃げようと藻掻く体を乱暴に押さえつけられ、瓶が傾くのを視界に収める。
「…!!!」
液体が流れるのがスローモーションのように見えた。そして、