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某世界の某国の姫のように私はさらっと答えた。

『金貨が摩耗して、耐久性のある金貨を作れって、ジャーファル様が急かしてくるんですよね』と呟いていた元難民仲間で現・造幣局勤務の男友達は、私の『紙幣を作ればいい』という言葉に『そんな胡散臭いもん、使えませんよ』と返してきた。

胡散臭いって失礼な。経済の大発明になんて言い草。紙幣が胡散臭ければ、某世界の某国のペンギンが宣伝してる電気のお金はどうなる。

私は、ペンギンはひとまず横に置いておき、前世の知識をフル活用して、紙幣の利便性を切々と語った。元経済学部の地球人なめんなよ。

「シノさん、時々へんなところでくいつきますよねー」
「いやー、君が時々捨て置けないこというから、昔の血が騒ぐというか」

『ご実家、商家だったんですっけ』と思いだしている友人に、そっちじゃないんだけど、と心の中で呟く。

昔の血とは、私の前世、地球で生活していた頃のことである。華の女子大生の時に交通事故にあい、気がつけば記憶を持ったまま別の世界に転生していた。カルチャーショックを受けながら割り切らなくてはと自分探しの思考に浸った赤ん坊時代、商人だった父にばれないよう経済学部で学んだ知識でこっそり実家の経営にアドバイスをしたちびっ子時代、家が裕福になり『うはうはだぜ』と思ったら国の内乱にあい富を国に搾取され亡命することになった少女時代、家族と逸れたり、娼館に売られそうになったり、奴隷商人につかまりかけたりの激動時代を過ごし、最終的にまるっと亡命仲間ともどもシンドバッド王に助けられた。

現在の私は幼少時代の教育のおかげで文官の仕事にありつけている。前世からは想像できない波乱万丈の生活を送ってきた私をいつも支えてくれたのは知識である。それは幼少時代に家庭教師から学び、そして何よりも前世の小・中・高・大と学んで得たものである。

やっぱ教育って大事だわ。そんなことを再認識をした私は文官として採用された時、学問担当に配属願いをだした。すると、見事希望が通った。

ぶっちゃけると学問担当はそんなに人気がない。やっぱり花形は財務担当や外交担当である。財務担当は、シンドリアの政務のトップである政務官ジャーファル様が長を兼任しており、格が違う。財務担当になるには他の担当で経験を積み、成果を出してからではないと配属されないエリート部署である。

まぁ、そんな人気部署はどうでもよくて。学問の大切さを痛感している私は、現在シンドリアの識字率を上げるべく町に寺子屋設置のプロジェクトを推進中である。上層からは、『文字が読めなくても暮らせる』とか『財政がピンチなのに、そんな無駄物』と言われた。

頭にきた私は、学問は身を立てるためだけではなく、国力にも繋がる。資源に乏しいシンドリアでは国民が財産であり、その国民の基礎知識をあげることは国益に直接つながる。珍しくそんな熱弁をふるったら、王が『いいんじゃないか』と言ってあっさり判子を押してくれた。王様まじ素敵。

というわけで私は前世の記憶を持ちながら、シンドリアの文官として学問を担当している。

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