雑穀米
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なんとなく、絶対に手が届かないほど遠い存在なんだろうと理解していた。芸能人だとか、ああいう人達とも違うけれど、絶対に道を共にできない人。1週間に一度は会える。しかし、だからと言って彼が私を見てくれることは一生ないのだろう。
「あれ、髪切ってもうたん?」
「……似合いませんか?」
「いや、似合っとるけど。なんや、心境の変化かいなと思ただけや。」
「大人っぽくなるかな、と思って。少しでも平子さんに近付きたいから。」
そう言ってニコリと笑うと、彼は居心地の悪そうな顔で目を逸らした。
「……同い年やんけ。」
「私はそれ、信じてませんもん。」
「明らかに高校生やろが!」
「だって制服着てるところなんて見たことないし。それに、平子さんみたいな雰囲気の同級生なんていませんよ?」
コンビニには様々な年代の客が来るが、彼はそのどれにも当てはまらないように思えた。学生にしては大人っぽすぎるし、オッサンには見えない外見。20代くらいがしっくりくるような気もするが、話してみるとそれ以上に大人な気がする。
知れば知るほど、不思議な人だった。彼の友人らしき数人もこの店の常連ではあるが、私と彼ほどよく言葉を交わす間柄ではない。単なる店員と客。しかし少し特別とはいえ、その枠には彼も当てはまってしまうわけで。知り得る情報は大して多くない。
「カノジョおると、かっこつけて大人っぽくなったりすんねん。男っちゅうのはな。」
「彼女さん、可愛いですか。」
「……おー。美人でスタイルも良おて、料理もウマいし完璧な奴や。」
「嘘ですよね。」
「おいコラ。」
「棒読み加減で分かりますから。……私より、大人な女性ですか?」
ピ、と6個目の弁当をレジに通しながら尋ねた言葉は揺れていた。あーあ、と思う。やっぱり手が届かない。泣いたって仕方がないけれど、滲む視界はどうしようもなかった。
彼には、本当に大切に想っている女性がいるらしい。このコンビニへ来たことはないし、彼は曖昧な嘘しか言わないため想像もできない。分かることは、その人の話になると彼が哀しそうに笑うということだけ。
「…俺と、同じや。せやから、大人に分類されるかもなァ。」
「そうですか。」
「無理に大人になろうとせんと、自分に近いオトコ見つけた方がええで。」
「………迷惑、ですか。」
「…別に。けど、どんだけ頑張ろうと俺には届かんわ。そこ、ちゃんと理解しとき。青春は無駄にしたらアカン。」
私の青春の形を貴方が決めないでよ、と文句を言うほどの元気も無い。最後の弁当を頼りない袋に詰めて、差し出した。
コンビニバイトの女子高生と、常連の平子さん。
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