紅の幻影 | ナノ


真理の代価 1  


(エドside)

大総統との電話とか驚いたことはいっぱいあったけど、今はこの女……リトに対して前みたいに恐怖したり、嫌悪したりすることはなくなった。
こいつにもきっと事情があるんだと思い、オレたちはとりあえず話をすることにした。

執務室のソファーにオレとアル、机を挟んでその向かいにリト。大佐は自分の席に座り、中尉はその横に立っている。

「話とは何でしょうか?エドワード・エルリック。」
「まず、いちいちフルネームで呼ぶのを止めろ。『エド』でいい」
「ボクも『アル』って呼んで下さい」
「…わかりました。では、私のことも『リト』で結構です。あと、アル……敬語も必要ありません」
「えっ、でもリトさんの方が年上ですし…リトさんも敬語ですよね?」

そういやリトの方がオレより5歳も年上だったな。でもよく見ると、17歳にしては子どもっぽい顔立ちと体型だよな。こういうのを幼児体型って言うのか…

「今、失礼なこと思いませんでしたか?」

……何でわかるんだよ…。
やっぱり、リトの放つ殺気には慣れない。誤魔化しきれるとは思わないが引きつった顔で否定すると、それ以上言及するつもりはないようで、リトはアルの方へと向き直った。

「…私の敬語はいつものことです。アルは無理して使わなくてもいいんですよ?」

あと、さん付けもいりません。とリトは付け足す。何かこいつ、アルには優しくないか?

「わかったよ、リト!よろしくねっ!」

まあ、アルはオレと違って人付き合い上手いし…などと別にショックなどは受けない。断じて受けてない。

「なぁリト……お前、どうしてオレ達のこと知ってたんだ?」

オレは疑問に思っていたことを、包み隠さずに訊いた。リトは最初から知っていたんだ。身体のことも、人体錬成のことも。

「……それにお前、錬成陣無しで錬成したよな?」

それが出来るのは"アレ"を見たやつだけ。しかし見るためには通行料がいる。リトの手足はちゃんとあるし、臓器を持って行かれた様子もない。他の人間にあって、リトにないものと言えば……─体温。

「錬成陣無しの錬成とお前のその体温は、何か関係があるんじゃないのか?」

アルも同じことを思っているようで、オレの言葉に頷く。暫くオレと目を合わせていたリトだが、諦めたように小さくため息を吐いた。

「私は……異世界から来ました。」

言葉は通じるのに、意味が理解できない。たとえ言葉にしようと通じてなければ独り言だと、誰かリトに教えてやってほしい。

「異世界とか…ありえねぇだろ!」

錬金術師は魔法とか曖昧なものは信じちゃいない。異世界も然りだ。

「私のことを知りたいのでしょう?だったら黙って最後まで聞いて下さい。」
「くっ…わかったよ、続けてくれ」
「はい。…私のファミリーネームはご存じですよね?」
「アールシャナだろ?」
「えぇ。では、『タイアース』と言う名はご存じでしょうか?」

タイアース……たしか、時の賢者と呼ばれた男。かなり昔の術師だが、錬金術師なら知らない方がおかしいぐらい有名な人物だ。
文献によるとおよそ200年前、突然姿を消したっていう天才錬金術師、タイアース・アールシャナ……アールシャナ?

「…!お前っタイアースの…!?」
「子孫です。」
「…本物……?すごい…」

時空を司ったとされるアールシャナの一族。まさかその末裔に会えるなんて…というか、実在していたこと自体が驚愕だ。

「でも、ちょっと待ってよリト!タイアースはある日突然姿を消したはずじゃ…」
「消しましたよ。…この世界から、ね。」
「どういうことだ?」
「知っての通り、彼は時の賢者と呼ばれていました。つまり、時を……世界を渡る術を知っていたんです」
「世界を……渡る?」

リトは頷き、話してくれた。この世界の他にある、もう一つの世界の話を。それは門の向こうの世界だと言う。
200年前、タイアースは自分の研究を悪用しようとしているやつらから逃れるため、門の向こうへ行ったのだと。

「私も家にあった彼の日記を読んだだけで、直接話を聞いたわけではないのですが、要約するとそんな感じです」
「ふむ、さすがは時の賢者か…」
「てことは、リトも世界を渡れるのか?」

タイアースが本当に世界を渡ることが出来て、リトがその子孫だとすれば……と、オレは半信半疑で聞いてみた。するとリトは懐から金色の鍵を取り出してみせる。見たこともない形のそれは、何故か神秘的な感じがした。

「……これは?」
「時空の扉を開けるための鍵です。」
「時空の扉?」
「そのままの意味ですよ。世界を渡るための…時空を越える力を秘めた鍵です。それを使って私は世界を行き来しています。」

オレはリトから渡されたそれをマジマジと見た。
温かくもなく、冷たくもない。重いわけでも、軽いわけでもない。青い宝石のようなものがついた鍵。本当にこんなもので世界を行ったり来たり出来るとは信じられないが、リトが嘘をついてるようには見えない。
とりあえず信じることにした。

「オレ達のことを知ってたのは何でだ?まるで見てたみたいに……」

そう言うとリトは「後悔しませんか?」と訊いてきたので、アルと顔を見合わせてから頷いた。

「……鋼の錬金術師、通称『ハガレン』」
「はぁ?オレはそんな呼ばれ方されたことないぞ?」
「違いますよ。私の世界……現世には、『鋼の錬金術師』と言うタイトルの本があるんです」
「え!?オレの!!?」
「っ…何故私ではないのだね!?」
「いや、大佐はないっしょ…」
「そうですよ!寧ろ『鎧の錬金術師』ですよっ!」
「アルも違うから!てか、オレ…すげぇ!!本にまでなってんの!?」

でも、リトから返ってきた答えは意外、と言うかショックだった。まさかオレ達の旅が作られた……物語だったなんて。
それじゃオレたちの命も感情も全部作り物だって言うのかよ。そんなのって……クソッ!



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