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 これは、徹にあげよう。
 あのとき触れた35ミリフィルムカメラの、おもちゃとは違うずっしりとした重みと、宝箱をもらったような感動は今でも覚えている。
 有限のフィルムを使い尽くし、無くなる度に親にねだって買ってもらい、それでも飽きたらず祖父の倉庫を漁り古いフィルムを見つけだしては写真を撮り続けていた。
 壊れる度に店に修理に出しに行き、それでも最終的に寿命を遂げてしまった最初の相棒は、今でも捨てることができずに宝箱に仕舞ったままで、時折思い出したように引っ張り出しては磨いている。
 コンパクトデジタルカメラ、ミラーレス一眼カメラ、時にはチェキのような遊び心あふれたカメラを手にしたこともある。その上で最終的に今自分の相棒として使っているのが、今手元にあるフルサイズ一眼レフだ。かつての相棒に最も近い写りで性能も今まで使ってきたどのカメラにも負けず劣らずの高性能。
 広角レンズに付け替え、フォーカスリングを動かしながら夜空を撮ろうとしてふと思い出す。
「……そういえばこれ、遼くんに見せてないや」
 まだフィルムカメラを使っていた頃、徹に美しい世界を教えてくれた友人に、もう半年近く会っていないことに今更気が付いた。
 最後に会った夏には欠片も見えていなかった赤い心臓を持つベテルギウスが、再び冬の空に高く、輝いていた。


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