冷戦日和番外編W


シンオウにやってきて3ヶ月。
突然、ミュウツーが大量のモンスターボールを持ってやってきた。

「…我々は、もう共に旅をする必要は無い」

この地で私たちのことを知る者はいない。
即ち、私たちが一緒に旅をしなければならない理由も、無い。
モンスターボールをやるから、それで新しくトレーナーとしてやり直せ。
丁度この町にはトレーナーズスクールもある。タイプ相性でも学んだらどうだ?
そう皮肉たっぷりに言われてしまっては、返す言葉も無い。
私は黙ってモンスターボールを受け取り、そして彼と別れた。

別れて、一週間が経つ。

この地にはテンガン山という巨大な山があるらしく、恐らくそこにいれば人間に見つかることもない。
彼にとって、此処の自然はまさに新天地。
ハナダのどうくつに居るよりも、幸せなはずだ。…勿論、私といるよりも。
私はと言えば、何故か心の整理が出来ずにいた。
始めは敵だった。嫌々協力関係を作り、そしてそれがだらだらと続いた。
それだけのはずだった。…それだけでは、無かったのだろう。

いつの間にか、信頼関係を築いているような気になっていたのだ。
私はどうも、ポケモン相手に誤解をしてしまうようだった。
かつて私が使っていたポケモンたちがちっとも懐いてくれなかったことを思い出す。
草むらでポケモンに出会っても、怖くてボールを投げる事が出来なかった。
…きっと彼らも、私に懐いてはくれないのだろう。
以前のポケモンたちのように、或いは、ミュウツーのように。
否、彼の場合は「懐く」という表現は的確では無いだろう。
そう独りごちて、真新しいIDカードを眺める。
ID取得の為に手持ちポケモンを登録するとき、ミュウツーは渋々ながらも登録を許可してくれた。
それから、相変わらず私の手持ちは一体、ミュウツーがいるだけと書かれている。
自分の気持ちが良くわからないなんて、生まれて初めての経験だった。
ぼうっと町の中に立ち尽くして、歩き去る人たちの会話に耳を傾ける。

「…ねえ、知ってる?……」
「テンガン山の……」
「ギンガ団がでしょ……」
「カントーから来たポケモンを探してて……」
「宇宙パワーがどうとかって……」

「ミュウツーって、言うんだって」

突然聞こえたその単語に、無意識に体が反応する。
どういうことですか。
声をかける訳にも行かず、宿泊しているポケモンセンターに駆け込んだ。
流れているテレビのチャンネルをバラエティから勝手に変え、ニュースを見る。
当然ながら、そんな話題は流れていなかった。
……ギンガ団。
兎に角テンガン山に行ってみようとチェックアウトをしたところで、ふと思う。
私はもうミュウツーには関係がないのだ。
大体、ポケモンを持っていない私が乗り込んだところで何になろう。
ボールを手のひらで転がして、考える。
……でも、それでも私は。
ぎゅっ、とボールを握りしめた。


噂に聞くアカギと言う人物は、どうやらかなりのやり手のようだ。
そもそもポケモンを持っていない私がやり合うのには無理がある。
では、手っ取り早く噂の真偽を確かめて、かつ身軽に動くには―。

「これしか無いわよね」

呟いて、支給された団服とズバットの入ったボールを見た。
ギンガ団に潜入して調査する。それが私の考えた最善策だった。



アカギという人は、噂に違わず頭の良い人間のようだった。
問題は部下たちだ。彼を尊敬しているのは分かるが、恐らく演説の大部分は理解できていないだろう。殆どはアカギの言葉に酔いしれているだけ。
そんな彼らがポケモンを上手に育てられるはずも無く。

私はやがて、ズバットをゴルバットに進化させ、入隊して一週間程度でしたっぱの中でもトップに上り詰めていた。

「あの、サターン様。ミュウツーというポケモンの件ですが…」
「それはジュピターの隊に任されている。お前は任務に集中しろ」

小さく舌打ちをして持ち場に戻る。矢張り下っ端では駄目なようだ。
情報は驚く程入ってこない。捕獲作戦をしているというのは分かっているのだが、それ以外のことは何一つ知らされなかった。

相変わらずちっとも懐いてくれないゴルバットを従えて、倒したトレーナーのIDを使いパソコンへアクセスする。…このトレーナーもピッピは持っていないようだ。
大体、ピッピが宇宙から来たポケモンだの宇宙のパワーだの、馬鹿らしい。ボスの趣味なら趣味で集めていると、そう言えば良いのに。
溜息をつきながら36枚目のカードをパソコンに通した時、不意に無線で連絡が入った。
サターンへの連絡のようだが、彼は先ほど何処かへ行ってしまったばかりだ。代わりに受ける事にする。

「あら、*? まあいいわ。ミュウツーを捕まえたから、サターンに本部へ来るように連絡して」
「……え?」
「聞いていなかったのかしら? ミュウツーを捕まえたから……」
「えと、分かりました。了解です。伝えておきます」

ようやく収穫があった。下っ端でも上層部は自然と幹部と顔見知りになる。
それが幸いして。こうして情報を入手できたことになるのだが…。

「ミュウツーが、捕まった?」

頭の中で復唱する。とても信じられない。一体何故、と口の中で尋ねてみる。
当然答えが返ってくるはずもなく。

「ゴルバット、そらをとぶ」

ボールから出したゴルバットに命令する。向かうのは勿論本部だ。
幹部たちの手持ちはある程度把握している。ゴルバット一匹で問題ない。
体に風を受けながら、私は拳を握りしめた。



ミュウツーは丁度本部に輸送されるところだった。
ジュピターの周りを数人の下っ端が囲んでいる。彼女が手に持っている、見慣れない形のモンスターボールが恐らく噂に聞いている「マスターボール」だろう。
確かに、これの手にかかればどんなポケモンも逃れられないのかも知れない。

「ジュピター様」

物陰から走り出て、彼女の方へ行く。

「あら、*。サターンは何処?」
「サターン様は諸事情があって到着が遅れるそうです。代理に私が来ました」
「代理?」

ジュピターが顔をしかめる。一体何の代理なのだ、という顔だ。
肩に止まるゴルバットに目配せする。相変わらず、憎らしい程懐いていない。

「ゴルバット、エアスラッシュ」
「なっ……!」

ジュピターの手からボールが落ちる。
すかさず拾い上げ、彼女が出したポケモンと対峙する。

「それが狙いだったということね。…いいわ、相手をしてあげる」

甘い。私を一体誰だと思っているのだ。
次の命令を待つゴルバットを無視して、ボールを地面に叩き付ける。
久しぶりに見たミュウツーは、手を胸の前で交差させて、目を閉じていた。

「ちょっとミュウツー、起きなさい」
「……*?」
「ぼーっとしてる暇があったら、切り抜けるわよ」

どうやら戦いで傷ついているようだ。
ゴルバットにシャドーボールを命じる。
盗んだ技マシンを勝手に使って覚えさせた甲斐があったというものだろう。

「ほらっ、使って」

ポケットの中から回復のくすりを投げて渡せば、ミュウツーは軽く受け取ってこちらを見た。

「……ああ」

尻尾を波打たせて、その一打ちで駆け寄って来た下っ端をなぎ倒す。

「共同戦線再開、ということか」

その言葉に、不覚にも微笑んでしまった私がいた。
私たちのこの関係は、まだまだ続く事だろう。





ミュウツーが別れを切り出したのはギンガ団から追われている事に気付いて、*に迷惑をかけまいとしたからなんです。と言ってみる。
リクエストありがとうございました!



(10/08/04)



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