アポロ甘夢


私は、自分の父親が嫌いだ。
そう言うと、大抵の人が「そういうお年頃だから」という返答をする。
けれどそう言う人たちの大半は、私の父のことを良く知らない。
彼がジムリーダーやマフィアのボスをやっていることとか、数年前に幹部も部下も皆置いて、一人で失踪したこととか。

「シルバー、本当に行くの?」

「…ああ。姉さんもさっさとロケット団なんか捨てちまえ」

「でも……」

「…じゃあな」

私の弟もロケット団を捨てたが、弟のことは嫌いにならなかった。
彼は元からロケット団が余り好きじゃなかったし、それを公言して去って行ったのだ。
誰にも、責めることは出来なかった。
―もっとも、そのとき「残っていた」ロケット団は、私とアポロ、だけだったのだが。

「……お前は、本当に良いのですか」

シルバーの後ろ姿を見送った後、アポロは振り返って私に言った。
それは、私が本当にこの道に「足を踏み入れる」のかどうか、最後の判断を迫っていたのだと、後になって、分かった。

「*、どうしましたか。*」

聞き慣れた声に薄目を開けると、目の前にアポロの顔があった。
どうやら彼の帰りを待つ間に眠ってしまったらしい。
机に突っ伏していた私の顔には、恐らく痕がついていることだろう。
慌ててじんじんする頬を隠しながら飛び起きる。

「すっかり遅くなってしまいました。済みません」

その言葉に時計を見ると、もう朝の3時だ。
夕飯に作った肉じゃがはすっかり冷めてしまっている。

「アポロが朝帰りなんて珍しいわね。終電は平気だったの?」

茶化す私に、アポロは一瞬だけ寂しそうな表情を見せる。

「ゴルバットに空を飛ばせましたから。…本当に、済みません。
次からはポケギアでしっかり連絡します」

「連絡してもらったところで、あなたを待つのは変わらないわ。
……それより、何か収穫はあった?」

「ええ。ラムダとアテナの現在の居場所が分かりました」

「本当!?」

ラムダもアテナも、私がずっとお世話になってきた人たちだ。
彼らがロケット団復興を手伝ってくれるのなら心強い。

「ええ。…でも、それより」

アポロは呟いて私の隣に座った。
まっすぐな視線が、私の方へ注がれている。

「何……?」

「私は、未だ迷っているのです。本当にお前を…いえ、貴方を、こんな所に引き込んでしまって良いものか」

ゆっくりと背中に回された手に体を預けて、彼と額をこつん、とぶつけ合う。
アポロの吐息が、私の頬にかかる。

「何を言ってるの。…あの人の娘として生まれた時から、私はこっち側にいる」

「そんなことを言っているのではないのです。ロケット団復活の時には、私と貴方は二人で最高幹部を務めたいと考えています。…そうなれば、もう後戻りできません」

その声は、何時になく不安に揺れていた。
嗚呼、アポロは自分のためじゃなく、私の為に、こんなに声を震わせているのだ。
こんなに小刻みに体を震わせているのだ。

「…分かってるわ。あの人が捨てた場所に私が留まって良いのか、あなたはそれで悩んでるんでしょ」

アポロは顔を上げて、私を見た。
アイスブルーの瞳が、揺れている、揺れている。

「*……」

ぎゅう、と抱きしめられた体は、ほんの少し息苦しくて、暖かくて…。

「愛してます。サカキ様に申し訳ないくらいに」

その言葉に、私はほんの少しだけ、笑った。





ほんのり切甘。の、つもりでした。
サカキの娘と恋ってなったら、アポロさんは要らない遠慮を色々しそう。
リクエスト、ありがとうございました!

10/7/19






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