前衛的な旅行
「ねえミュウツー、」
横を歩く*が突然声を上げた。
初めての旅行で、ミュウツーにとっては見るもの珍しく、
そんな彼の静かな喜びと相反するかのように穏やかな微笑を浮かべて黙っていた*なのだが、不意に真剣な表情になって、今は彼を見上げていた。
「なんだ」
「やっぱり、こんなのおかしいよ」
まっすぐな瞳。
こちらを刺すような目線。
ミュウツーのそれとはまた種類の違う、視線の力。
「どういうことだ」
息が詰まるような思いでようやくそれだけ搾り出すと、
ここぞとばかりに*は手に持つ地図を見せた。
かなり大まかな地図のようで、そこには大きく今回の旅行先――シンオウが描かれている。
その横に書かれている、世界を創生したポケモンの豆知識だとか、神が云々、といった情報には一切触れず、ある一点を、迷いも無く*は指差した。
「私たち、ここからずーっとこっちに向かって歩いてきたでしょ?」
そうなのか、それは知らなかった。
思わずそういうのをこらえて、ミュウツーはうなずく。
道なんて*にまかせっきりだったのだから、知る由も無い。
「なのにね、今私たち…なぜかフタバタウンにいるのよねー」
地図上で『フタバタウン』を探す。
……目指していたカンナギタウンとは随分と違う場所に来てしまったようだった。
「何でだろうね、うん。私はしっかり地図を見ていたというのに。おかしいなあ」
確実に、絶対的に、お前のせいだろう。
しかし自分だってあちらこちらに目を奪われてまともに道筋の確認をしていなかったことは本当なので、*一人を責める訳にもいかない。
結果として、ミュウツーは黙りこくり…
「仕方が無い」
つぶやいて、*の手から地図を取り上げた。
「おっ! なんですか! 専売特許の瞬間移動ですか!」
期待の声を上げた*に、深くため息をつく。
ミュウツーは頭の良いポケモンだ。
一度も行った事が無くとも、目的地に至るまでの地図があれば、そこへ一瞬で移動することができる。
元が観光目的の旅行だ。この能力を使う場面など無いと踏んでいたが…
ため息に近いものを搾り出して、ミュウツーは*を抱き寄せた。
フタバタウンの入り口近くにいた二人の姿が、フッ、と消える。
ミュウツーは頭の良いポケモンだ。
一度も行った事が無くとも、目的地に至るまでの地図があれば、そこへ一瞬で移動することができる。……大抵の場合は。
「ミュウツー、ねえ此処絶対カンナギタウンじゃないでしょ」
「……そんなはずは無いっ……」
「いーや君の満ち溢れる自信がガラガラと崩れ去ることを前提に言わせてもらう。
私たちは完全に道に迷いました!だって此処山頂でしょどう見てもっ」
……でも。
*が不意に嬉しそうな顔になった。
「何か、これも楽しいかも」
言って、常日頃彼らが空間を飛び越えるときにするように抱きついてくる。
どうすればいいかわからなくて、訳も無く尻尾を震わせていると、
いつの間にか*の顔は優しげなものへと変わっていた。
「ごめんね。いっつもバトルばっかりで。
強く生まれたのは君のせいじゃないし、誰にだって休む権利はあるかな、って思って」
それでちょっと旅行してみたんだけど。
「でも、予定ガチガチ立てるよりはこうやってのんびりするのも良いかも」
「……山頂だが」
「ま、シンオウ寒いだろうってコート持ってきてよかったかな」
そう言って、鞄の中からテントと毛布とコートと……ん?
「此処で、夜を明かすつもりか?」
「うん? そうだけど? だって、ミュウツーが此処選んだんでしょ」
少し意地悪にそう言って微笑む*。
胸に、何かが詰まったような気がした。
カウンターゾロ目お礼として書かせていただきました!
「ミュウツーとのほのぼの旅行記」とのことでしたので……。
見事、挫折してますね、はい。
ほのぼの…貴様がこれほど難易度が高いとは……。
っと、こんなもので申し訳ありませんが、良ければ貰って下さい!
書き直し、リクエスト等はいつでも承りますので!
ありがとうございました!!
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