イライラがそのままフォークに伝わり、薄いホットケーキ三枚を見事に貫く。そしてそれを食べるでもなく、もう一度突き刺した。ホットケーキは穴だらけだ。 「おいおい、行儀悪いぞ」 カイルは呆れたように、親友の珍しい姿を眺めた。 今朝からずっとこうなのである。綺麗な顔が凶悪な顔に一変し、口はへの字。見るからに不機嫌です、と主張している。 ただでさえ他のパイロット達から嫌煙されているのに、今日は心做しかいつもよりもっと距離を取られている。 「ハルちゃ〜ん」 助けてと言わんばかりに隣に座る相棒の名前を呼んだ。 「昨日の訓練生が余程腹立たしかったらしい」 ハルルは肩を竦めた。 ガツン、と今度こそホットケーキの下にある皿へぶつかる音をさせてエイノはフォークから手を離した。 「そんなんじゃない!」 ギッ、と二人を睨みながらエイノは反論する。 「いや完全に気にしてるでしょ」 「ホットケーキが蜂の巣だな。大変だ」 ふんす、と口の中へバラバラのホットケーキを放り込んだエイノはそのままもきゅもきゅと食べ始めた。 完全に怒りが食にぶつけられている様子にカイルとハルルは顔を見合わせた。 しばらく朝食を掻き込み満足したのが、ドン、とフォークを机に置く。 「あの失礼な猿め」 やはり原因は昨日の訓練生にあるようだった。 「言うほど猿じゃないと思うけどなあ。むしろ綺麗な顔だったよね、ハルちゃん。東洋の神秘?てやつ」 「ああ、まあ可愛らしい少年だったんじゃないか」 ハルルの言葉にカイルは途端に震え出す。 「ハルちゃんまさかああいうのがタイプ……?」 「男の美醜に興味はない」 「さすがハルちゃん!それって俺がどんな顔でも好きってことだよね!」 「流石の私も頭の中身は選ぶぞ」 「ヒドイ!」 まるで子犬のように喚くカイルを無視してハルルは続けた。 「まあ、それ以上に自信過剰な生意気お子様にも見受けられたが」 ぐずぐずと泣き真似をしていたカイルは両手で頬杖を着く。 「んー、まあ天才て言われてるくらいだし、そんなもんなんじゃん。うちの天才様が無自覚根暗自信家なだけで」 「おいなんだその変な呼び名は」 「戦場の半分を撃墜しておいて、まだ足りないとか言ったりする所とか?」 酷い言われようだが思い当たる節があるのか、エイノはぐっと言葉を詰まらせる。 別に自慢したくて言っているわけではないが、聞こえようによっては自信家に聞こえなくもない。その言葉の前に着いた根暗という言葉は大変不名誉であるか。 「好き勝手言われたのが癪だ」 「あー、なに?あの寂しいのかって聞かれたやつ?」 「勝手に分かった気になって、ズケズケと言われて、気を良くするやつがいるか」 カイルとハルルは顔を見合わせて苦笑した。それは所謂図星だったからなのでは、とは口が裂けても言えなかった。図星であること自体、エイノが気づいているかも怪しいのだ。 「ま、そんな気にしなくていいと思うけど。卒業試験終わったらどこの支部配属になるかまだ決まった訳じゃないし、万一うちに来てもまずは准士官だろ?エイノにちょっかかいかけに来る時間なんてないと思うなあ」 「それも、そうか……」 ほっと、幾許か安堵の表情を浮かべたエイノへ二人は追い打ちをかける。 「最も気をつけるべきはこの試験期間だと思うけどな!試験日以外って自由行動だったしー」 「基本的に共有スペースはどこでも入れることになっているしな」 「……」 「訓練の鬼なエイノが部屋に閉じこもってる選択肢もないし」 カイルは揶揄うようににやりと笑った。 エイノはぶすっとした表情で睨み返す。 「悪ぃ悪ぃ、エイノくんのそれは東洋で言う美徳ってやつだもんな」 「へ〜訓練の鬼なんだ」 「そうそう、エイノってば本当朝から晩まで訓練漬けで……おああああっ!?」 ガタンと、カイルは立ち上がる。エイノとハルルも椅子を思わず引いて距離を取った。 「あれ、そんなに驚かなくてもいいのに」
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