「……だから」

「そうだ……だ」

「見てみたいよね?」

「そうだな俺ばかり……だからな」



誰かの声で意識を手にしていく。

途切れ途切れで何の話をしているのかはわからない。






2人の男の、話し声だ。






「よーっし!絶対見つけてやる!」




その元気な声で、私は一気に覚醒した。



……外から、エースの声だ。


驚いて外を見ると、そこにはエースと……キングがいた。




珍しい組み合わせ。

というか、キングはまた迷子なの?
ナイトはいないみたいだけど……




部屋を出ると眠たそうに肘をつくジャックが目に入る。





「おはよう」

「……はよ」

「エースとキング、何しようとしてるの?」

「知らね。バカ共は放っておけばいいんじゃね?」

ジャックは呆れたようにそう言った。




うーん、そうだね……


見たいとか言ってたから、何か見に行ったんだろうけど。





「ジャック、ちょっと遠くまで扉探しにいかない?」


「悪ぃけど、今日街の手伝いあんだわ」


街の手伝いって……



帰るためのことより優先するのか。



というか街で手伝いって。


「何するの?」

「夜から祭やるらしーから、その準備」



……へぇ。


こんな世界でも、お祭りはあるんだ。





椅子に座らず立ったまま、家の中を見渡した。


相変わらず殺風景で、何もない。

暇をつぶせるものは、ない。



かといって祭の準備を手伝うにも……きっと力仕事だから私には無理だ。




「じゃあ私だけで扉探してくるね」

「は?大丈夫かよ」

「うん、大丈夫大丈夫」



いざとなったらジョーカー呼べば良いわけだしね。



ジャックに別れを告げて家から足を踏み出した。










「……ってか、迷いそう」


やはり森は森。



木ばっかりで、方向性すらわからない。


どうしよう、迷子になったら。

ジョーカーも来れない場所とかだったら。



餓死するの!?

あ、食事はしなくても大丈夫だからそれはないのか。



路頭に迷ってゲーム終了、とか。

……笑えない。




そもそもここが来たことあるのかないのかすらわからない。



風景変わらなさすぎなんだよ、森!


真ッピンクのウサギとかいるなら、木の色とかも変えてよ!





いやでも、虹色の木とか……見たくないな。





1人うんうん悩んでいると、誰かの声が聞こえる。





……誰かいるの?


少し警戒して、その声へと近づいていく。




「……何ですか」



この声は、ナイトだ。

何だか困ったような声だ。


誰と話をしているのだろう。
キングと会えたのかな?




「っだから!わかりません!」


困ったように声を荒らげている。



相手の声は聞こえない。





邪魔くさい葉っぱをかきわけて、彼の姿が見えるまで近付いていく。




がさり、ナイトの姿が見える。





そこにいたのは



ナイトと……





「にゃー」

「……っだから!にゃー、じゃわかりませんっ!」





濃い灰色の、猫ちゃんだった。





……え?

何、猫と会話してたの?



猫はナイトにすり寄って、何かを訴えるように鳴いていた。





ナイトは正座をして、猫にわからないと話しかけている。



何をやっているんだこの人。


天然なのか。
わざとなのか。

本気なのか。
冗談なのか。



わからない。




「……ナイト?」


「あ、アリス……猫の言葉がわかったりしませんか?」

「さすがにそれはない」


私人間だから猫語はわからない。

ごめん、力になれなくて。




まぁ、言葉はわからないけど……







「……お腹すいてるんじゃない?」


たぶん。


猫もお腹すかないものなのかな?




「お腹がすいてる……」


納得したようにナイトが考え込む表情を浮かべながら猫を抱きかかえて立ち上がった。






「その猫どうしたの?」


「木の上で鳴いていたので……」



助けてあげたんだ。

さっすがイケメン!


「じゃあ川で魚を……」

「ミルクあげればいいと思うよ!?」



確かに魚くわえてるイメージあるけどさ!



というか、川の魚って色おかしいよね。
蛍光色ばかりだよね。



あれって食べれるのかな……





そうですか?とナイトは笑って歩き始める。


お、あっちが街なのか。



私はナイトの横を歩き始めた。










「今日はキングを探してないの?」

「なにやらエースと約束があるということで……仕事はないと」


草をふみわけて歩く。


景色が、明るくなってきた気がした。




「あー、エースと」


だからいたんだ。

ナイトに送ってもらったあとおし帰したのか。




お休みということですか。

従者とかに休みってあるのか……




優しくナイトは「自分から私以外の人に関わるのは珍しいので嬉しいです」なんて笑う。



従者というより……保護者?





がさりと草が最後の音をたてて街についた。



ジャックの家に近い、見慣れた街。

ここが最寄りの街ってことだろうから……私はそんなに歩いてなかったということか。



もしかしてあの森をぐるぐるまわってただけ……!?
ナイトは近くでミルクとお皿を買う。

買うというよりは、物々交換をした。

この世界にお金の概念は存在しない。


ナイトは価値のありそうな綺麗な石を渡していた。
宝石みたいにキラキラ輝いている。



リアルで売れば高値つきそうだなぁ。






街のはずれ、邪魔にならない場所で猫を降ろした。



お皿にミルクを注いで猫の前に置く。



「はいどうぞ」



猫は嬉しそうに飲み始めた。




ナイトは安心したように息を付く。


「ありがとうございます、アリス」

「いや、街までありがとう」


まぁ勝手についてきたかんじだけどね。




満足したのか猫はナイトに近付いて、鳴いた。


まだ何かあるのかといった様子でナイトはしゃがみ込む。




猫は器用に、ナイトの頭に飛び乗る。




「……懐かれたね」


可愛い。


ナイト+猫。


超可愛い。



この猫は人間にはならないタイプ……普通の猫のようだ。



このままでいいのかナイトは立ち上がった。




「あ、そうだナイト。お祭りあるらしいんだけど……休みなら一緒に見てみない?」

「私なんかでよければご一緒させていただきます」

「やったーデートだね」

「デー……っ!?」



赤い。

楽しい。


からかうの楽しいよ!


いやでも男女だし「デート」なのは間違ってないはずだ。





ナイトは赤い顔のままごほんと咳払いをした。
「……私でいいのですか?その、ジャックとか、エースとか……キング、とか」

「2人はともかくキングはいらない」



ジャックはお仕事、エースはあなたの主と遊びに行ったようですよ。




赤い顔のままナイトは苦笑する。



段々と、お祭りの時間が近付いてきたからか人が多くなってきた。




「というか私は……ナイトがいいの」 



ワザと照れたように下を向いて呟いた……照れてないけどね。



「あ、の……アリス」




声が上擦っている。

何でそんなに動揺しているの?



ピュアを越えてないか、超絶ピュアか。




顔を見ると真っ赤っかな林檎状態だった。

顔の色のお陰かせいか、髪の毛の銀髪がよく映える。





「……ありがとうございます、アリス」


赤いまま、優しく笑うから。



私まで赤くなりそうな気持ちになった。

な、なにがありがとうございます、なの!



こっちがありがとうございます!







もう少し、時間がある。

だいぶ日も落ちてきた。



「何かして時間潰そうか」



でも扉を探すのは無理かな。

……ナイトがいるから迷子にはならないけど、時間的に暗くなって見つかりにくいだろう。





「そうですね、祭……アリス、浴衣等着てみたらどうでしょうか?」

「ゆ、浴衣?」

「はい、アリスは綺麗なので浴衣も似合うと思うのですが」



うわぁ!綺麗!
ナチュラル、自然にその言葉を言えるんだ……


天然タラシだったり、するのか?


赤くなってないし、軽く言っただけだよね?




「でも浴衣なんて……」


周りを見渡す。

浴衣なんてこんな世界にないんじゃないだろうか?




ナイトはくすりと笑って私の手を引いた。


「あちらに呉服屋があるんですよ、貸し出しですけどね」



貸し出し……レンタル衣装か。


浴衣あるんだ、何でもありなんだなこの世界。



アリスだし……洋風なイメージがあったから浴衣はないと思った。





連れて行かれた先の呉服屋はすごく、混んでいた。



「わぉ……」

「祭前だから、ですね」




街の人たちが楽しそうに話をしている。


……こういうところはリアルと変わらない。




平和なんだよなぁ。
クイーンとか白ウサギとかいなければ。

私の命が狙われなければ。



「おめぇら何してんだ?」








「あ、ジャック」

「こんにちは」



疲れたのか、眠たそうな顔をしたジャックが私たちに近付いてきた。




準備終わったんだ。

じゃあ本当にもう始まるね。



「いえ、ちょっと浴衣を借りようとしたんですが……」

「浴衣ぁ?」

「私が浴衣着たいなぁって」



首を傾けていたジャックが思いついたように声をあげる。




「女もんの浴衣なら家にあんぞ」


女物が、ある?

しかも浴衣。



「去年の……捨ててなけりゃどっかにあっと思うけどなぁ」



去年のお祭りで使ったものか。



「その……ジャックが着たの?」


「あ?違ぇよ……昔の知り合いの、やつ」


ぎゅ、とジャックが緑のマフラーを掴んだ。



昔の知り合い。女の子の知り合いなんていたんだ。




「それ、私が着てもいいの?」


「おー。どうせ誰も着ねぇしな」



ジャックやエースが着てても困るけど。

……エースならギリギリいけるかな?



いやさすがに無理だ。






私はナイトと家の方に向かった。




その浴衣はすぐに見つかった。

黒い色に赤い花がちりばめられた浴衣。



サイズは、大丈夫。

子供用とかじゃない限り着れるんだろうけど。





……ん?あれ?

浴衣って、どうやって着るんだっけ。



浴衣着たのっていつぶりだ?小学生とか以来じゃないか?

中学にもなったら私は甚平or私服でお祭りに参加していた記憶しかない。




えーっと、とりあえず甚平と一緒だし、左前だよね……




で?




とりあえず浴衣を引きずらないようにあげるの?

腰で結ぶ?あ、この紐使うのかな?



うん?

わからない。






「……ナイトー」


助けてもらうしかない。




「どうしました?」


扉越しにナイトの声が聞こえる。





「浴衣の着方わかる?」

「……着れないということでしょうか?」



その通りでございます。



扉を開くとナイトが一瞬驚いた表情を見せた。


大丈夫、スケベ的な何かは存在しないから。
中にちゃんと着てるから。





「着せていただけるととても助かります」

なんとなく、敬語で。
そう頼んだ。




ナイトは「失礼します」と器用に浴衣を着付ける。



なんでこの人こんなにパーフェクトなの?

従者だから?


イケメンって何でもできるんだねー。




猫と会話して本気で困ってたけど。






「はい、できましたよ」


「ありがとう!」




笑ってお礼を言うと笑い返してくれた。






黒が基調の赤のアクセント。


ナイトの上着に目を向けた。



赤いラインの入った、真っ黒なもの。




「お揃いだ」

「……そうですね」




また赤くなった。



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