「ナイト可愛いね」

「……ありがとう、ございます?」




首を傾げながらそう言った。


ほめたんだよ、喜ぼう!
疑問にしてないで!






「アリスは綺麗ですよ、とても似合っています」

ふわと笑って、私をまっすぐと見ながら言ったナイト。



……突然は反則なんだって!


ナイトに手を引かれ、お祭り会場へと向かった。






日も落ちて、お祭りの光があたりを照らしていた。



今日はクイーンの機嫌が悪いわけではないみたいだからよかった。

……キング脱走してきてるし数日後には天気が悪くなるんだろうけどね。





「お祭りと言えばー、かき氷に、わたあめに、リンゴ飴!」


「お土産の分も含めて多めに買っていきましょうか」




お休みなのにキングのことちゃんと考えてる。


そういえば、彼らの「用事」は終わったのだろうか?




というか、何を見たかったんだろう。

歩いているとナイトの頭に猫が乗っているからか、たまに人の目に映る。


猫ちゃんとずっといるつもりでしょうかこの方。






ぐっ、と。



浴衣を引っ張られた。




振り返るとそこにいたのは、小さな女の子。


泣き出しそうな顔をしている。




「アリス?」



ナイトが私につられるように振り向いた。





「うわぁぁああああん!」



小さな女の子が、大声で。

泣き始めてしまった。





人の目が集まる。



「えっと、迷子かな?」

私の言葉に少女がこくこくと首を振った。



迷子センターとかないのかな。


というかこれだけ大声で泣いたんだから保護者でも誰でもいいからでておいで!






「親探そうか!」
「私肩車しましょうか?高い所からの方が見つけやすいと思います」
「とりあえず、何か食べる?」
「どんな人を探してるんですか?」

2人で何を言っても少女は首を横に振るばかりだった。





……どうしよう。


周りを見ても関係ありそうな人はいない。





少女はその場所から動こうとしない。



「とりあえず移動しよう?」

「やだっ!」



え、何でやだなの?





「……何で?」











「だってエース兄ちゃんがこの銀色の人困らせろって!」







……はい?




「あっ、馬鹿!」





次に聞こえてきたのはエースの声。


……近くにいたのか。

というか、どういうことだ。





「エース、どういうこと?」






エースとキングが、悪戯を失敗したような顔で私たちの近くに現れた。




猫が2人に威嚇して、逃げだした。

……威嚇してったけど、どういうこと?




「私を、困らせる……?」



不思議そうに、ナイトが首を傾けた。





少女は「もういいの?」と泣くのをやめた。

演技派だ……
この子、エースを探してた時に訪れた子供の施設の子か。





「……っだって!腹立つじゃん!」




エースは顔を赤くして叫ぶ。


腹立つって……





「アリスと会ったばかりの時もすぐ仲良くなるし!何でも完璧にやっちゃうし!」


キングがエースの言葉に賛同するようにうなずく。

あんた誰のおかげでいつも迷子脱出できてると思ってんのよ。





「だからぎゃふんと言わせたかったんだ!ねっ、キング!」

「そうだな、ナイトの間抜けな面も見てみたいと思ったんだが……」



ぎゃふんって。古い。


ナイト言ってあげれば?「ぎゃふん」って。




見てみたいって、「ナイトの弱点を見たい」ってことだったのか。





流石のナイトも呆れた顔をしている。

「……通りで、動物が突進して来たり、突然森で火が起きたりと色々あったわけですね?」



危ないことしてるね!?

私に会う前にそんなことがあったの!?




猫を木の上にあげたのもあんたらか。





「あったじゃん、猫と会話してる間抜けな様」

「……言わないでください」



思い出したように顔を赤くしてうつむいた。




「あれ、あざといだけじゃん!」



あざといって……

いやまぁ可愛いって思ったけどね。




あれ、本気で会話してたんだと思うよ、振り返ってみると。


「アリスは渡さないんだからなばーかばーか!」

「エースはアリスがお好きなんですね」

「当たり前だろ!」



当たり前だろって。

ありがとうエース。



告白なのかもしれないけど「好き」の意味合いがいまいち微妙だからスルーしておくね?





エースが思いついたように、私を見ていたずらに笑った。




「そういえばアリスに浴衣似合ってるって言ってたよね?」


「はぁ、それが?」


「浴衣って寸胴で胸が小さい人が似合うらしいよー?似合ってるってつまりそういうこと?酷くない?」



……何を言ってるんだか。


いやでも、ナイトは物知りだよね?


つまり知っててもおかしくないよね?



その上で言っていたということは……






「……そういうことなの?」



確かに大きくはないけど。

でも小さくもないよ、たぶん。




寸胴で貧乳って……言われたら傷つくよさすがに。



なんだか泣きたくなる。




うつむくと、ナイトに




抱きしめられた。







「一般的にはそう言われてますけど、実際はそんなことないと思いますよ。
現にほら、アリスにはよく似合っている」


「ほらじゃねーよ!なにアリスとぎゅーってしてんだよ!」


「……2人とも落ち着くといい」



珍しくキングが止める係だ
……じゃなくて。




「とりあえず、女性を泣かせたあなたにとやかく言われたくありません」

泣いてません。

「違う!お前に抱き付かれてるから泣いてんだよ!」

だから、泣いてません。




「おい、お前ら。面倒くさいからやめてくれ」



キング、どっちの味方にもつけないのか。



エースは「友達」……たぶん。

ナイトは「従者」だもんね。




キングの呆れたような声が聞こえてくる。


抱きしめられてるから状況把握できてないんだけど。





力を緩められたから、少し見えた。




「私に勝てると思ってるのですか?」

「何も持ってないくせに強がってんじゃねーよ!」

「舐めないでいただけますか、常に何かしらは持っています」



ちょっと待て。

エースが刀を手に持った。

刀の鞘を適当に放り投げる。





ナイトはいつもの太刀は持っていなかったけれど、上着から小さなナイフを取り出してエースに向けた。


リーチ的にナイトの方がきついと思う。





いやいや、そういうことではなくて。


あれ、これ私が原因!?




私のために争わないで!とかそういうレベルじゃないよね!?





「最初っからお前は嫌いだったんだよ……!」

「奇遇ですね、私もです」





お祭りっていう楽しい場所で何をしようとしてるの2人。


ナイトでも嫌いな人間のタイプいるんだーとか言ってる場合じゃない。

リアルの人間同士仲良くしようよ!




周りの人怯えてるからやめよう!


「おいおめぇら何してんだ!」



天の声が聞こえる。

我らが苦労人ストッパー、ジャックだ!
やったね!助かる!





キングがジャックを見て苦笑する。





「見ての通り、アリスを取り合っている」



「は?何でそんなの取り合うんだよ」

さぁ2人を止めて――……ってちょっと待てこら。




そんなのってなんだ、そんなのって。


扱い酷くない?






「とにかく、武器と乱闘は禁止だ!祭の雰囲気壊してんじゃねーよ!」



すっかりお祭り関係者だね。

しぶしぶといったように武器をしまう2人。


はぁ、良かった。




ナイスジャック。

言葉はちょっといただけなかったけど。





「てか、いつまでアリス触ってんだクソ騎士」

「……」



ぱ、とナイトに離される。



ずっとくっついていたからか、一気に寒くなった気がした。






「アリス、申し訳ありませんでした」

「いや、えっと……こ、こちらこそ申し訳ありませんでした……」



思わず言葉がうつった。



ず、ずっとくっついていた。


ナイトと、ぎゅうって。

ナイトに、抱きしめられていた。
ずっと。





ナイトは少し赤い顔で、笑う。


「何故アリスまで敬語になるんですか?」


「な、何ででしょう」




今更恥ずかしさが込み上げてきた。



さっきは恥ずかしいとかそれどころじゃなかったから……!






突然、大きな音が鳴った。



あたりが明るく照らされる。




……花火。


すごく大きな花火。







思わず全員が、目を奪われた。





こんな世界でも、綺麗なものがある。

平和な場所が存在している。



大切な人たちがいる。





だけど。


やっぱり、私は帰りたいと思う。

だけどただ帰るだけじゃ嫌だ。





「……リアルに帰っても、みんなで」



ちゃんと全員で、帰って。


「あっちでも、花火とか見れたらいいな……」




今、ジョーカーはいないけど。



ちゃんと、全員で。

誰1人失わずに。





「そうですね、是非、全員で見ましょう」




ナイトの顔は見えないけど。
優しく笑っている、気がした。




手が手に触れる。


ナイトの暖かい手が、触れた。





銀髪が、花火の光で綺麗に見える。






目が合ったナイトは。


やっぱり、優しく笑っていた。



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