オッドアイなんですか。その言葉は吐き出す前に消え去った。
 言い切る前に佐々木先輩が先ほどの優しい表情を浮かべていた人間と同一人物なのかと疑えるくらいに、怖い顔をして睨んできたからだ。
 何を言いたいのかわかっているような様子で、佐々木先輩は荷物を持ち直した。


「……忘れてって、私も尚志も言ったよね?」
「忘れられるわけ、ないじゃないですか……」


 あんな瞳を……他の人とは違う綺麗な瞳を、見て。忘れられる方がすごいと思うんです。
 グラウンドと部室の合間の人の少ない場所で、無言の時間が少しだけ経過した。

 佐々木先輩は怒っていて。私に向って、怒りの感情を向けていて。
 先輩を怒らせているなんて、私もやばい後輩だなぁとか思ったりして。


「好奇心で尚志に近付かないで」
「好奇心なんかじゃ、ないですっ」

 私のこの感情は好奇心なんかじゃなくて、明らかに好意で。
 私なんかが何か力になれればいいなとか、支えになれればいいなと思っていた。


「そうやって桐谷さんは、無意識に他人を傷付けてる」




 そう言って浮かべられた笑顔は、私が「残酷だ」と告げているような笑顔だ。



「これ以上尚志を傷付けたくないの。お願い、もう関わらないで」



 佐々木先輩は俯いて、飲み物を1人で持ってグラウンドへと歩き出した。


 私はそれ以上何も言えなくて、ぎゅうと唇を噛んで部室の方にある水飲み場へ向かった。
 普段は佐々木先輩が飲み物を持ってきてくれるから手を洗ったりする時以外ほとんど必要はないのだけれど、今日はこのままグラウンドへ向かえなくて、水飲み場へと思い切り走って行った。


 水を飲もうとして蛇口を勢いよく捻れば、上向きの蛇口から水が勢いよく噴出した。それは顔に直撃して、ぽたりぽたりと滴っていく。

 少し後ろから、笑い声が聞こえる。
 教室で聞きなれたその笑い声に後ろを振り向く。天音ちゃんが私を見ていて、しばらく私を見て「大丈夫?」と問いかけてきた。
 部活中なのか天音ちゃんは袴姿だ。和服も似合うなぁ。


「うん、大丈夫。勢いよく捻っちゃった」
「そのことじゃなくて」



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