「最近はよく来るなぁ、尚志」
「なぁに、来ない方がいいの? 柚子ちゃーん」
「いやぁ熱心なことはいいことだ。てか名前で呼ぶなっつってるだろ!」

 休憩の間に私の前で談笑する先輩方。
 楽しそうにしている相川先輩を見てどこか安心感を覚える。


「まぁ、最後の1年だし、夏休みで引退だしさ」


 そうか、先輩方は3年生で。
 受験勉強もあるだろうし、夏にはいなくなってしまうのか。

 夏休みまで、そんなに時間は残っていない。


 走って、跳んで。
 単調に、真剣に相川先輩はその行為を繰り返す。やっぱりその行為は綺麗で。見惚れてしまうくらいには、綺麗で。

 ほとんどの人が自分の活動に真剣になる中、何人かは相川先輩の高跳びに目が行っている。釘づけになってしまっている。


 とんと、その場を相川先輩は軽く跳んだ。
 助走に入ろうとして、そして、止まる。どうしたんだろう?



「あー! コンタクト抜けた!」


 ふざけた調子でそう叫べば、枢木部長が苦笑いして相川先輩に近付く。
 佐々木先輩も、心配したように小走りで走っていった。


 気を取られた人は練習を再開する。


「確実に下に落としただろ、何やってんだよ……眼鏡は?」
「……忘れたわー片目だけじゃ超ぼやけるー。今日に限ってコンタクト予備持ってないしぃ」


 右目を抑えて、左右のぼやけのせいで視界がおかしくなるのを相川先輩は防いでいた。


「私、コンタクト取ってこようか」


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