「あっ、薬!」

「ちょ、何大切なものスられてんの!?」

「油断した!」



ノアが足に力を込める。

人間とは思えない素早さで、少年を追った。
少年を土の上に倒して、逃げられないように押さえつけた。


「返せ!」

高かったんだから。
ノアが頬を膨らませた。


マツバが追いついた頃、少年は顔を上げて2人を睨んだ。


赤い、瞳。




「──忌み子」


マツバがそう呟いたと同時に、ぼふんと煙を上げて少年は消えた。
ノアは驚いて咳を繰り返す。


「……妖弧か」


ノアがマツバを一瞥して呟く。


忌み子。
悪夢病を患った人間の、生き残りの末路だ。

そう呼ばれる彼らは目が赤くなり、周りにいる人間に災いをもたらすと言われている。
人を食べなければ生きていけない、人間に嫌われる存在だった。



「薬取られるとか馬鹿じゃないの!?」


マツバが声を荒らげて、それにノアは耳を塞いだ。
あぁ、やっちゃったなぁ。マツバはそういうところ、うるさいんだから。



言い訳混じりの良い言葉をノアは探して首を回す。


「だってぇ、変じゃん!完成りが薬盗るとか!……忌み子に成ったら薬飲んだって意味ないんだし」

「で?奪われたのとどう繋がんの?さっき『油断した!』って思いっきりいってたけどあんた」





 

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