「うぅー……薬って高ぁい」


サングラスを掛けた男、ノアが情けない声を出して肩を落とした。


「仕方ないでしょ。みんな求めてて足りないくらいなんだから少し高いくらい仕方ないの」


マツバの一部を小さく三つ編みに結んだ髪が風で揺れる。
ノアは彼女の言葉に唇を尖らせた。



……悪夢病。
この世界にはそんな御伽噺みたいな病気が流行っていた。

不治の病。
死ぬか忌み嫌われる存在になるか。
最悪の2択を迫られる病気。


皆々はなんとか完成した薬で進行を遅らせ、病気を治す方法ができないかと願っていた。


「病人の足下見やがってぇ」

ノアが薬の入った袋をぐしゃりと潰す。

マツバはため息を吐いて空を見上げた。


マツバとノアは病気の治療法を求める人間の一部だった。
街を転々と情報収集に勤しんでいたわけだが、中々上手くはいかないもので。


「……ノア。今日はこの街に泊まって明日出発ね」
「ほーい、次近いのは、ラグプールかな」

地図を広げるノアにマツバは相槌を打った。
手軽に泊まれる施設はないものか。

ノアが辺りを見回したと同時に、手に違和感が走る。


持っていた薬の袋が、消えたのだ。
正確に言えば、少年に盗まれた。



 

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