軍医である瀬谷川睦月がいなくなった。
地下牢には彼の白衣が脱ぎ捨てられていて、そこにいた捕虜の女も消えていた。
誰も行方を知らない。
生死すらもわからない。
代替に来た軍医は腕はそこそこで、落ち着いた人間だ。
捕虜の存在を知っていた少数は、かけおちかなんて、冗談めかして笑う。
仕方がないんじゃないの。彼は優しすぎたから。
捕虜を殺していないであろうことに安心したような誰かが、小さくそう呟いた。
「はじめまして、あなたは誰?」
何度だってはじめまして、をしよう。
「はじめまして、俺は瀬谷川睦月」
何度だって教えてやるから。
「わけあって俺らは旅をしているんだ。綺麗な空を見つける旅」
「なぁにそれ。素敵ね」
「そうだろう、今日も行こうか、きっとそのうち見つかるはずだから」
何度だって、笑ってみせて。
A blue sky
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