「空を見たくないか?」


地下牢に近付くなり、睦月はアイリスにそう告げた。

誰?と問いつつも、見たい、と返事を返してくれる。


「俺は医者の瀬谷川睦月だ。そうだろう、俺も見たいんだ」
「見れないの?」
「ここはな、汚ぇ空しか拝めねぇんだ。綺麗な青空なんざ、夢のまた夢だ」


いつもの言葉は問わない。
ゆっくりと、睦月はアイリスを見据える。


「アイリス。あんたはさ、たぶん俺を信頼してくれるんだ、毎日毎日。

──だから今日も、信じてほしい」

睦月の言葉にアイリスは首を傾ける。


「ずっとずっと遠くへ行けば、綺麗な空を拝めるかもしんねぇ」


睦月は牢の鍵を開けて、彼女に近付く。
そっと、アイリスの手錠を外した。


持ってきた服を着せて、彼女の手を引く。


情を移してしまえば、それまでならば。
いっそのこと。


「ここを出よう」


俺も共に、逃げよう。


そうしてもいいと思えるほどに、睦月にとってアイリスは大切になっていた。


「捕虜なんか逃がしたら、あなた殺されるんじゃないの?」
「逃がすんじゃない。俺も逃げるんだ」

綺麗な空を求めて。
平和な世界を求めて。


ドラマチックな愛の逃避行にはほど遠いけれど。


あんたを殺すくらいなら、俺だって逃げる・逃がすのリスクを共に負ってみせよう。


アイリスの手を引いて、睦月は人気のない道を通る。
拠点となっている大きな建物を使われていない裏口から抜け出して、大きく息を吸い込んだ。

「……行くか」


手を強く握り、 2人は歩き出した。



奪取


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