バディになって、何度か仕事を共にしてさ。
スナイパーがあってるとわかってからは好調で、小野寺さんも褒めてくれるし。
とうとう「バディなんだから、名前で呼べ」だなんて言ってもらえて。
認めてもらえた、だなんて。
距離が縮まった、だなんて。
思った。
うん、思っただけだった。勘違い。
ほら、まただ。
「刹那」
体に任務では付けてなかった傷を付けて。
赤い印を馬鹿なくらい付けて。
「ん、」
「仕事」
「うん……」
目を開けた刹那は重たげに体を起こした。
馬鹿だ、馬鹿みたいだ。
毎日のように行為を繰り返しているなんて。吐き気がする。
仕事に支障きたしそうだな、その内。
「……なぁ、仕事の前の日くらいは、その、なしとかさぁ」
俺の言葉に刹那は首を傾ける。
ちら、と首もとに視線をやると、あぁ、と納得したような表情へと変わった。
「セックスのこと?」
「何でストレートに言うかなぁお前はさぁ!」
オブラートって知ってる?
刹那は鼻で笑って俺を見た。
話しながらも着替えを始めている。
「俺に言われてもなぁ」
「……付き合ってんなら考慮くらいしてくれんだろっ」
「付き合ってない気持ち悪いことを言うな」
行為をいたしてる時点で気持ち悪いと思う発想はないのでしょうか?
というか、付き合ってないのか。
そいつは武装をして、薄いマフラーのようなものに顔をうずめた。
自分のドッグタグを引っ張って遊ぶかのような動きを見せた。
「俺は道具だからな」
刹那は頻繁に自分が「道具」であるという。
人間だろ、何言ってんだ、馬鹿。
そんな言葉も通じないようで。
目を細めた目の前のそいつが、何故だか可哀想に思えた。
「今日は外周警備だけだろ、行くぞ」
刹那に続いて外にでて、外周警備という名の見回り。
ぶっちゃけ家の周りに敵なんてこないから、散歩のようなものだ。
さっきまで眠たそうな顔をしていたくせに、その様子を見せようとしないなんて。
少しだけ尊敬する。
俺は皮肉のようにそう心の中で呟いた。
外周警備は幸せなことに午前、午後で交代だから、飯だ飯だと家に戻る。
「あれ、刹那食わないの?」
「……腹、減ってないから」
眠たげに目を擦って自分の部屋に向かおうとしているそいつ。
ちゃんと食わなきゃ倒れんぞ、まぁ、別に本人がそれでいいならそれでいいけど。
食欲より睡眠欲らしい。
まぁ、疲れてるだろうしな、イロイロ。
刹那と別れて食堂で飯にありついた。
そこで名前を呼ばれて、顔を上げると党首がいた。
「明日の任務の話だが、少し変更になった」
「あ、はい」
「小野寺にも伝えておいてくれ」
向かう場所が変わったらしい。
それを聞いて党首に礼をし、また飯に手を付けた。
刹那は寝てるだろうから、後でいっか。
夕方になって、刹那の部屋へ向かう。
まだ寝てたとしても夕飯の時間だし起こしてしまおう。
仕事のことも言わなきゃいけないし、ほっといたらどうせ食わないんだろう。
「刹那ぁ、飯行こうぜー」
ドンドンとドアをノックしたら、ドアがゆっくり開く。
そこに立っていたのは背の高い痩せたあいつではなく、背の低い太ったおっさ……間違った、参謀様(自称)。
またこいつか。
この人の名前なんだっけ。
あぁ、思い出した。木下だ。
誰だと言うように睨みつけてくる。
あれぇ刹那はまだ寝てるの?
寧ろ今から眠る系なの?
付き合ってないってことは要するに行為をするだけでしょ。
つまり今ここにこの人がいるってことはそういうことでしょ、またやってたってことでしょ。
「あ、俺刹那の相棒です……あのぅ、刹那疲れてたんですよ、ちょっとは配慮してやってください」
どうせ本人は言わないだろうし、俺が言ってやる。
木下は怪訝な顔をした後に、鼻で笑ってきた。
「道具の都合など知るか」
あぁ道具だって。
こいつのせいなのか?本人が道具とか言っちゃうの。
「……刹那はあんたの道具なんかじゃない」
「俺が買ったんだから俺の道具だろ」
買った?ナニソレどういうこと?
体売っちゃってるの、金には困ってないだろ優秀なんだから、軽いの?
木下は俺を押しのけて部屋から出た。
帰るらしい。
「買ったって、何だよ」
俺の言葉で、木下は振り向く。
「奴隷商人から買ったんだよ。寧ろ感謝して欲しいね、男で我慢してるわけだし、助けてやったようなもんなんだから」
奴隷?
我慢してる?
助けてやった?
わけがわからなくなりそうだ。
あいつ一体何なの。
奴隷って、そんなところ出身なの?
我慢してるじゃねーよ。
助けてやったじゃねーよ。
それで苦しめてんじゃ、意味ねーよ。
無意識に、だった。
俺は拳を作っていて、それは目の前のおっさんの顔に直撃していた。
何個か暴言を吐いて、その場を走って逃げた。
というか開いていた刹那の部屋に逃げた。
やっべぇやらかした。
ベッドに近付くとやっぱり苦しそうな表情を浮かべていた。
時折うなされていて、普段無感情でいる分夢で吐き出しているのかもしれないなんて思う。
刹那、と声を掛けるとそいつは目を開かずに反応を見せる。
「……何、いたの」
布団から出ようともせず、こちらを見ようともしない。
ごろんと背を向けられて、表情は見えなくなった。
「明日仕事なぁ、敵方の偵察になったよ。飯行こう」
「了解。腹減ってないからいい」
嘘付け。
昼も食ってないだろ。
そこに寝ている刹那は必要な筋肉以外ついてないみたいで、指なんかはやけに骨ばっている。
筋肉なくなったら骨人間だろお前。
「……なぁ、お前ってなんなの」
ぽつりと呟くと、は?と不思議そうな声をもらった。
「買われたって何。奴隷って、何」
「あの人から聞いたのか?へぇ、仲良かったの」
「たぶん寧ろ最悪」
殴っちゃったし。
「何だったっけ、忘れた。うん、戦力のためだとかで、買われたんだっけ」
単調に吐き出されていく。
思い出しながらか、頭が働いてないからかで言葉は途切れ途切れだった。
「奴隷、は。えぇと、ちっせぇ時に金に困った親に売られて、育成だとかいって殺して、殺されて、性欲の処理とかした」
だいぶエグいことを言っているのに感情はこもっていなくて、どうでもよさそうだった。
そしてぐちゃぐちゃだから何を言っているのかわからない。
両親に奴隷を扱う人間に売られて。
そこで売るために戦力の育成とかで人を殺させられて。
役に立たなかった周りの子たちは殺されて。
兵士だの何だのの性欲処理にも利用されてた。
まとめるとたぶんこういうことだろう。
女の子は役に立たないってすぐ殺されてしまいそうだしな、だから「男で我慢してる」のかもしれないな。
「辛くないの」
「別に」
そいつの右耳には番号のかかれたプレートのようなものが付けられていた。
あぁ、それもそうなの。奴隷とか何とかのやつなの。
両親に売られた時点で、人間としての刹那はいなくなったのかもしれない。
右耳に触れると、刹那は少しだけ体を揺らす。
何、と言いたいのか。
「これすぐとれそうじゃん」
「面倒くさい」
ピアスと同じようにつけられている番号。
面倒くさいって何だよ。
穴開いてるし折角だし今度ピアスでもくれてやろうかな。
でもってこれ、とろう。
5つも年上のくせに何だかそいつは放っておけなくて。
放っておけば壊れてしまいそうで。
「何、頭触んないで」
撫でてみると不快そうな顔をされた。
「飯行くぞ。肉を食え、肉を」
「吐くからヤダ」
お前は病んでる女子か。
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