そいつの第一印象は「無感情な人間」だった。
そいつとは話したこともなかったけど、一方的によく知っていた。
対人訓練なんかは敵なしで。
ぶっちゃけこいつとは当たりたくないな、だなんて思ってた。
だって、当たったら必要以上に体を痛めつけることになる。
手加減なんてしらないのか、こいつ。と思うくらいだ。
というか知らないんだろう。
実際に外に出てから、帰ってきたときには人の何倍も功績をあげてくる。
それと同じように傷も人一倍つけてきているらしいけど。
言ってしまえばようするに「関わりたくない部類の人間」だった。
関わりたくない、はずなのに。
「槇田のバディは小野寺になった」
「は!?小野寺なにさんっすか?」
「小野寺刹那。知っているだろう?」
党首の気まぐれかバディ制度が起用されて俺に悪夢が降りかかる。
関わりたくない人間、当時ナンバー1と言っても過言ではない。
小野寺刹那、そいつとバディを組まねばならぬという。
どうしてそうなったのマイゴット。
「あ、あの。小野寺さんは優秀ですしぃ、実力のある相方の方がいいと思いますよ……」
しどろもどろに吐き出す言葉に党首が笑う。
「だからお前を選んだんだろう。あいつにはお前がぴったりだ」
だから、の意味がわからない。
わけがわからないよ。
俺まだ18よ?大学生年齢よ?
まだまだお子ちゃまで、最近参加したばっかだから実力も笑えるわ。
戦争なんてゲームでしかやったことねぇわ。
ぴったりってなに、意外と性格合う系?
絶対合わない、合わねぇよ!
「話したことがないなら挨拶くらいはしておけよ」
それだけを告げられて帰された。
うわー、最悪だ。
怖い人にはあまり関わりたくないのに。
対人訓練とかも当たりやすくなるんじゃねぇのバディとか。
……適当に挨拶してこよう。
部屋どこなんだ。
適当にそこら辺にいるやつに小野寺さんの部屋の位置を聞く。
何故変な目で見るのか。
俺だって命知らずじゃないから行かなくていいなら行きたくない。
部屋の近くにいって止まる。
名前とバディになったことさえ伝えればいいよな。
よし、と気合いを入れたと同時に。
タイミングを見計らったかのように部屋のドアが開いた。
けど、出てきたのは小野寺さんじゃない。
あぁ、自称参謀様だ。
戦えないけど頭が良いからって無駄に地位があるやつ。
あれ、何でそいつが出てくるんだ?
あーあの人が小野寺さんかぁ間違ってたわぁ。
なんて、んなわけあるか!
戦えないってさっき言ったばかりだろうが、そんなやつがバディ制度に組み込まれてるわけねぇだろ!
そいつが離れてからドアに近付きノックする。
返事はない。
さっき出てきたわけだし開いてるよな。
本人はいないのか?
自称参謀様は空き巣か何かですか?
おそるおそるドアを開く。
姿が見えない。
中に入って見るけどその部屋は生活感があまりない。
俺の部屋と違って綺麗で、何か本がある。
本読む人なんているのか、珍しいような気がする。
自分が読まないだけか。
部屋の主はベッドにいた。
何だ、寝ていたのか。
……寝ているのに他人がいたのか?
俺みたいに不法侵入?というか俺これ不法侵入じゃん。
自分で言って気付いたわ。
寝息をたてている小野寺さんは辛そうな表情をしていた。
訓練では表情を変えないから意外だ。
夢見が悪いのだろうか。
汗で前髪が額にべったりくっついている。
目を合わせたくなくて、あまりよく見てなかったけれど。
よく見てみたらこの人、人形みたいだな。
睫毛長いし、二重で、肌が白い。
汗と表情、それに外でつけてきたらしい傷で人間であることはわかるけど、それらがなければ生きているかわからなくなりそうだ。
う、と声をあげて顔をしかめたので気持ち悪いのかと思い汗を拭ってやる。
起きないだろ、と油断してとった行動。
人形みたいだとか思ったのもひとつの原因かもしれない。
その人はゆっくりと目を開いた。
あ、やべ。
起きた。
開いた瞳に俺が映った。
「……だ、れ」
ぼーっとした様子でそう小さく告げる。
「ば、バディになった槇田春樹です!」
勢いよく立ち上がって敬礼すると小野寺さんは興味なさそうに上半身を起こした。
「ばでぃ?」
「なんか、バディ制度を取り入れるみたいで……」
ふ、と目に入ったのはその人の首もと。
首筋には、大量のキスマークがついていた。
……うわぁお盛んね。
それはおそらく新しいもので。
と、いうか。
服装もやたらと乱れてるしシャツはだけてるし。
あれ、もしかして。
この人そっち系の人?
さっきのおっさんとアレなことした系なの?
趣味悪くね?というかそういう問題じゃないけど。
そいつは俺には微塵も興味を示さずにシャワーがあるであろう場所に歩いていった。
うわぁ腹立つ。
このこと言いふらしてやろうか。
小野寺刹那さんは
同性愛者で
あの自称(笑)参謀様と付き合ってまーす。
新参者の俺が知らなかっただけかもしれねぇけど。
小野寺さんは本当にシャワーを浴びたのかってくらい早く部屋に戻ってきた。
「まだいたの」
光のない目で、ぽつりと呟く。
感情なんてない、死んだような人間に見えた。
さっきと全然違う。
人形は人形でも日本人形だ、雰囲気ホラーなあれ!
「いや、その、そちらからも自己紹介してもらえるかなと」
「知ってるから部屋を訪ねてきたんだろ」
その通りだけど!
せめてよろしくーくらい言えよ何なんだよ!
小野寺さんは俺をしばらく見てから着替え始めた。
あれ、何で。
「仕事、っすか」
いや、バディなら一緒だよな仕事とか任務ないよな?
そいつは怪訝な目を俺に向ける。
「……お前の腕がどの程度か確かめる」
あぁ、そう。興味ないけど相方だしまぁ実力くらい確認しとくかーみたいな?
着替えてこい、だなんて言うように手で追い払う仕草を見せた。
体力大丈夫なのか?
あれでしょ、お楽しみだったのでしょう?……げろげろ。
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