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復讐は、常にちっぽけで弱い心の快楽である。
―ユウェナリス
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私めがけて撃たれたはずの銃弾。
それは、ぶれたかのように私の後ろ側の少し離れたところにある壁へと撃ち込まれた。
額に当てられた、ゼロ距離。
外されるはずないと思っていたのに、外れた。
生きているはずないとおもったのに、生きている。
引き金が引き終わる直前、無理矢理銃を掴んで銃口をずらしたのは春樹さんで。
春樹さんの行動に、刹那さんは少し驚いたように目を見開く。
そのまま春樹さんは銃から手を離してその手で刹那さんを殴った。
「頭ぁ冷やせ馬鹿野郎!」
突然のことで対応できなかったのか、刹那さんは倒れはしなかったけれどよろめいた。
「落ち着け!」
春樹さんに肩を掴まれて、刹那さんは手に持っていた銃を無意識のように手放した。
静かな空間に銃が落ちた音が響く。
「……悪い」
ぽつりと一言呟いた。
刹那さん自身何をしているのか分からない様子で、放心しているかのような表情だった。
彼のその表情は、私の不安を何故だか煽る。
頭を冷やしてくると言うかのように私たちに背を向けて歩き出す。
玄関を出て、外へ。
私は追いかけようと歩き出したが、すぐに春樹さんに止められた。
「お嬢ちゃん、行かない方がいいよ。殺されるかもしれない」
銃は他にも持ってるんだから。
春樹さんは苦笑しながら私の手を掴む。
「……刹那を許してやってほしい」
小さく、ゆっくりと呟かれたその言葉に顔を上げる。
私は、別に。
許す許さないとか考えてなかった。
両親を奪ったのが刹那さんなのだから、その辺については恨まざるを得ないけれども。
……許し難い、ことなんだけれども。
私に関してはそんなこと考えなかった。
「俺たちはさ、人の命を奪うことしかできないから……刹那なんてちっさい頃から、ずっとそうしてきた」
声のトーンは低めに、春樹さんは話し出す。
刹那さんはこの抗争以外にも、昔から戦争の類に参加してきたということだろうか。
……幼い頃から、ずっと。
辛くはなかったのだろうか?
慣れてしまうものなのだろうか?
静かな空気が重たく感じる。
他に人がいないことが幸いだ。
「君を迎え入れることには賛成したよ、刹那が変われるかもしれなかったから……無茶な、話だったみたいだけど」
視線を私からそらして、床を見る。
どうやら私は、
刹那さんにも
春樹さんにも
利用、されていたようだ。
私も2人を生きるために利用しているようなものか。
「人間じゃないとか、矛盾してることにはあいつ自身気付いていると思う。自分は道具だとか言い張るくせに、人間でいたい、だとか」
……詳しくは私はわからないけれど。
人間じゃない、そういったのは。
人……私を「救えなかった」から?
人を救いたいのに、できなくて。
殺すことしかできない……春樹さんの言う「道具」だから?
「だけど、そうしないと自分を保てなくなってるんだよね、多分」
自分を騙して、自分に騙されて。
ぐちゃぐちゃになりながら刹那さんは今生きているんだ。
「……許す許さないなんて、考えられません」
私のことはいい、言うなら「許す」
だけど、両親のことは?
「許せない」んじゃない?
「私も、少し考えたいです」
考えて、向き合いたい。
そういうと春樹さんは、笑った。
「……うん」
私は部屋に向かって歩き出す。
両親を殺したのは刹那さん。
刹那さんは自分自身のために私を利用して。
春樹さんは刹那さんのために私を利用して。
私は生きるために2人を利用して。
助けてくれたのは刹那さんで。
笑いかけてくれるのは春樹さんで。
いつも、優しくて。
「……わけ、わかんない」
私はどうすればいいの。
もう、笑っていることなんて。
笑いかける、ことなんて。
……到底できやしないじゃないか。
互いを利用して、
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