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負け戦ほど痛ましいことはないが、勝ち戦もまた同様に悲惨である。
―ウェリントン



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──終わる。

ようやく抗争が、終わる。




任務終わりに突然呼び出され、言われた言葉はそれだった。





「は……?終わるって、どういうことっすか」




隣にいた春樹は目を少し見開いて、ゆっくりと言葉を吐き出す。


俺はただ無言で党首を見ていた。





「橋場が言ったんだ『協定を結ばないか』と」


協定。


散々他人の生活を台無しにした挙げ句に、有耶無耶にしてこの抗争を終わらせたいと言うのか。

……笑わせる。



他人の生活を台無しにした人間の中には、俺も含まれるわけだが。





「但し、相手の提案では協定を結ぶ場所は敵陣真っ只中だ」



はぁ、なるほど。

協定を結びたいのではなく「最後にしよう」と言いたいのか。




最後の最後、総力戦。




さぁ、どうするべきか。


党首はそう言わんばかりに俺たちを見た。

そういうのは力もないくせに地位を持つ自称参謀様共に問えばいいものを。




「……相手からの提案ならこちらに有利になるように戦うべきじゃないっすか。わざわざ全部相手の条件聞かんでも」



春樹は控えめに呟く。



まぁ、地の利を考えればこっちに来させるほうが有利だろう。


ちら、と党首は俺を見た。




「……別に条件は飲んでも良いと思います。まぁ、貴女の言葉に従いますけど」



無言で見てくる党首から顔を背けながら言葉を続ける。




「ある程度周りを制圧してから拠点を火攻めにでもすればいい」



相手も対策はしてるだろうが、一瞬でも動揺させればいい。

そう、そういう意味では大砲でもぶち込んでしまえば良いかもしれない。




大砲なんてねぇんだけどさ。

威力は落ちるがランチャーとか、バズーカとか?



もし仮に、相手に交渉してこちら側で戦ったら、どうだ?


力のないこちら側の人間を巻き込むことになる。






「……わかった、相手の条件を飲もう」


何か納得したように頷いて、椅子の背もたれにもたれかかる党首。


もう戻ってもいいのだろうか。




「相手の周りをある程度減らしたら、少数で乗り込む」



少数で?

別に全員で良くないか。



よくわからないな、まぁ、俺はそういったことを考えるのが苦手だから従うだけだが。




春樹は納得いかないようで、苦い顔をした。


それを見て党首が苦笑する。




「少数鋭勢というやつだよ。なぁ、飛び込むのは得意だろ、小野寺」




あぁ、俺は少数鋭勢に入るってわけね。



「俺は?」

「お前は外だ」

「何で」

「槇田はサポートメインだろうが」



不満げな顔を隠そうともしない春樹を軽く叩いて党首に礼をする。




「お前らに懸かってるんだ、コンディションは万全にな」


「はい、失礼します」

「……失礼します」




党首の部屋を出て自分の部屋へと向かおうとすれば、春樹が俺に制止の言葉をかける。

気にせずに歩き続けると追ってきて隣を歩きながら、口を開いた。





「お前、お嬢ちゃんと話したの?」



お嬢ちゃん。

名前ではないけれどずっとそう呼んでいるから誰のことかはすぐにわかる。




……エリカ。




少女のことを思い浮かべながら、静かに視線を横にいる春樹に向ける。



無言でいればそいつは呆れたような表情を浮かべた。




あの日から、話すことはおろか顔を合わせることもない。

姿を見ることは度々あるが。




食事も食堂には行かず、売店で適当に済ませている。





「ペットみたいに言うのは悪ぃけどさ、拾ったら最後まで面倒見るのは常識だろ」

「エリカなら明るくなった。もう1人でも生きていけるだろ」

「そういう問題じゃない!」



わざとらしく憤怒の表情を浮かべて俺の前に立った。




邪魔くさい。



溜め息をひとつ吐いて春樹の肩を押してどけ、1度止めた足を再び動かして前に歩く。




後ろで立ち止まるそいつがどんな顔をしているのか、背を向けた俺にはわからない。




「刹那、」




「……わからない」



背を向けたまま、足を止める。






「あいつと顔を合わせたとき、俺は笑えばいいのか?申し訳ない顔をすればいいのか?」



「お前は元々笑わねぇだろ、あまり」




少し呆れ、少し笑うような話し方をした春樹。




そう、で、結局。



どうすればいいの。
俺は、どうすればいいの。



わからないんだよ、正直。




大人と言っても非常識な存在だから。

人の命を奪うことでしか生きてこれなかったから。

人に従うことでしか生きてこれなかったから。



誰かに縋ることはできるけど、誰かと手を繋ぐことはできない、できないから。


謝ればいいのか?



首を唸るように傾けて、再び部屋へと歩き出す。







「今のお前は俺より人間らしいよ、刹那」





笑うような泣くような。
悲しそうな嬉しそうな。


相対的な感情がぐちゃりと混ざったような声を出した春樹に視線を向けないまま部屋へと戻った。






人間らしいってなんなの。

お前の言う人間らしいって何。




俺の「人間でありたい」って何なんだ。

救えば人間になれるの、人間でいられるの。



あぁ、もうわけわからない。




感情なんて最初からなければ良かったのにとか、わけのわからないことを考えた。





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