「……これが死んでもなんともねぇ、と」
「俺が自殺した後にエリカを殺す可能性も除外はできないだろ?それなら……エリカの死はお前を殺した後に悲しむさ」
向けられている銃は2丁。
1つは私を押さえている人に対してだけれども。
あれ、私生存率0%?
向けられていた銃が、押さえられていた腕が。
弛まった気がした。
「おい刹那!」
春樹さんの言葉は耳に入らない様子で、刹那さんはこちらを睨みつける。
「エリカを放せ。お願いじゃない……忠告だ」
「……忠告だぁ?」
「エリカを殺せば俺がお前を殺す、放せば見逃してやる」
笑顔から一変、冷めた表情を浮かべる。
上から小さな舌打ちが聞こえた。
「せいぜい出来の悪い頭で考えろ、馬鹿は馬鹿でも考えることくらいできんだろ」
とんとんと刹那さんは頭を指す。
春樹さんは周りに目を配りながら困った顔だ。
周りにはまだ、人だかり。
周りを見れるくらいには冷静になってしまった。
「そんなに煽って殺してほしいのか」
「自分にとって価値のない人間と命の天秤をかけんのかって聞いてんだよ」
つまり、自分が死ぬリスクを冒してまで私を殺すのか?ということでしょうか。
「言っておくが動揺して標準がぶれる、なんてことはしない。俺は外さずにお前の頭に鉛をぶち込むぞクソスカム野郎」
最後のはよくわからないけど貶してるんだってことはわかる。
私を押さえていた人は大きく舌打ちをして私を放した。
慌ててその場から離れる。
私を押さえていた人は嫌そうな顔をして、銃を下げる。
ゆっくりと背を向けて、家の奥へと歩いていった。
「おっまえ……!ビビらすなよ!」
「あぁ、悪い」
対立が終わったことで野次馬は消えて。
少し経てば玄関に人なんていなくなった。
みんなお昼でも食べに行ったのだろう。
「……悪い、エリカ。怖い思いをさせた」
そう、謝罪してくる刹那さんを見ても。
さっきの笑顔が頭から離れなかった。
近付くことが、怖い。
……あの夢だ。
腰の引けた私に、楽しそうに近付いてくる“悪魔”が出てくる夢。
今目の前にいるその人は、現在笑ってはいないけど同じような感覚。
近付けない。
近付きたくない。
近付いてほしくない。
刹那さんにこんな感情は、悪魔に対して同じ感情は。
……持ちたくなかったのに。
「生かすことで苦しめてしまうなら、いっそのこと」
ゆっくりと銃口が私の額に当てられる。
春樹さんの声が聞こえたけれど、考えられなくて何を言っていたのかはわからなかった。
そう、刹那さんに悪魔へと同じ感情を抱いてしまうこと。
それはまるで。
「……お前の親と一緒に殺してしまえばよかった」
“悪魔”は刹那さんである。
薄々感づいていたそれを肯定することになるから。
肯定したくなかった。
だから、私は。
小さな“怖い”という思いを見ない振りをして“優しい”あなたを大きくとらえていたのに。
「俺は、人間じゃないのかな」
引き金を引く場面がやけにスローモーションで見れた。
あぁ、人は死ぬときスローモーションで物事が見えると聞いたことがある。
あの夢で、あの時悪魔は。
バイバイ、そう言った悪魔は。
こんな泣きそうな顔をしてたっけ?
大きく、銃声が響いた。
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