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戦争では、勝つも負けるも、生きるも死ぬも、その差は紙一重である。
― ダグラス・マッカーサー将軍



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笑顔を作って。

あの人のために、笑うんだ。




食堂に人が減ってきた昼過ぎ。

慌てて走るような音が聞こえてくる。





「お嬢ちゃん!」


「……春樹さん?」



お仕事はどうなったのかな。

今日はもう終わり?



お昼少し過ぎたくらいだ早いよね。




いつものように軽く笑っているのではなく、真面目に困った顔をしている。


服は土まみれで、食堂ににつかわしくなかった。




「……仕事中に悪いんだけど、あのさ、刹那の手当て、頼めないかな?」


前やってくれたのも君でしょ、と苦笑する。




刹那さんが医務室行ってないの知ってたのか。

いや、わかるか。
あの雑なのを見れば。




「……美貴ちゃん」


自分と同い年くらいの職場の先輩の名前を口にする。



食堂で喧嘩が起きたときに怒って現れたあの子。



美貴ちゃんはニカリと笑って私を見た。





「あー、人少ないからええよー!行ってきな」


「うん、ありがとう!」




身につけていたエプロンを外して春樹さんに頭を下げて刹那さんの部屋まで向かった。











「刹那さん?」



部屋の前について、ノックをする。

反応がない。




……あれ、いるんだよね?




鍵が開いていたのでそおっと部屋に入った。


姿は見えない。




あれ?


左の方から、ドアの開く音が聞こえた。



「……あ」



お風呂に入っていたのか。





「あぁ、エリカか」




ラフな格好をした刹那さんが出てくる。


髪の毛は濡れてハネがないからいつもと違って見える。




……手当てしてって言われたんだけどな。


お風呂入れるってことは大きくはないのかな。




そう思った瞬間。





刹那さんの左肩、シャツがじわりと赤く滲んだ。



驚いて目を丸くすると刹那さんは首を傾けた。

頭を押さえながら「どうした?」と笑う。



置いてあった救急セットを手に取って慌ててその人に近寄る。



どうやら頭も怪我をしているようだ。





「す、座ってください!手当てしますからっ」



春樹に言われたのか、と小さく舌打ちをする。


いやいや、舌打ちしてる場合じゃない。




ソファがないからベッドに座ってもらって、手当てをしようと救急セットを開いた。



「慌てなくても大丈夫だ」

「慌てますよ!」




寧ろ何で本人がここまで冷静なのか。





頭の傷を探して止血する。


肩も同じように包帯でぐるぐる巻いた。

全ての傷を手当てする。




包帯を見て少し嫌そうな顔をした刹那さん。

しっかり巻いたから違和感があるのだろう。



血の付いたシャツを適当に投げて、着替えを取りに行くのか立ち上がった。




見えた背中には、沢山の傷。



新しいものだけじゃなく、古いものもある。




背中だけじゃなく、腕にもあるけど。






「どうした?」


視線に気付いたのか、あたらしいシャツを着た刹那さんが戻ってきた。



傷すごいですねなんて、言えるわけないじゃないか。




その時、刹那さんの首もとで何かが揺れたのが見えた。



2枚のシルバープレートのネックレス。




「そのネックレス、大切な物なんですか?」


とっさに、そう聞いた。



思い出のネックレス、とかなのかな。


刹那さんってアクセサリーとかつけないイメージだった。




ああ、と言いながらネックレスを外す。




それを私に投げてよこした。



い、いいのか。
大切な物を投げてしまって。




渡されたネックレスには刹那の名前や誕生日、血液型が刻まれていた。



刹那さん冬生まれなのか。


……じゃなくて。


2枚とも同じ物。




変わったネックレスだな。




「ドッグタグだよ、名札みたいなもん」


キッチンに向かっていく刹那さん。


私の前を横切るその人を目で追う。




「ドッグタグ?」


名札?




「2枚あるだろ。死んだときバディ、相方が1枚外して党首に死亡報告するんだ。もう1枚は死体が誰のかってわかるように残しておく」


1枚は少し力を入れれば外れやすそうな形だ。



「今回は相手のタグを取って功績報告、みたいに使用されてるけどな」



元々は色々と使い方が違ったみたいだけどな、と刹那さんはお湯を沸かす。


使い方はその時その時で変わるものだよね。





……安全な場所で過ごせるようになって忘れかけてたけど。


今はやっぱり「死ぬ」という言葉が当たり前に出てくる時代なのか。




ココアの甘い匂いがする。


刹那さんはココアを私に渡した。




「……飯でも食いに行くかな」




怪我で仕事はできない、というか行ってほしくない。

だから急に暇になったのか。




ココアを飲んで、私は立ち上がった。




「ご飯食べましょう」





ちゃんと食べてしっかり体力つけないと。

回復も遅くなりそうだ。




引っ張って行こうとする私を見て刹那さんが笑う。



「なんだ、腹減ってるのか?」




まぁ、そういうことにしておこう。



「そうです、だから、早く行きましょう」

「わかったわかった」




呆れるように、笑う。




笑ってくれて嬉しい。



けれど、




刹那さんの生への無頓着さに、どこか恐ろしさを感じた。



死んだように生きるその人


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